第六回「見た目はチャラ男、中身はオカン、それが蒼山海青なり」その一



 白石を先に行かせ、俺は教室行く前に料理部へと立ち寄る。今牛肉の燻製を料理部皆で作っているから難しい火加減の調整をこまめにやっていた。もう今日で三日目になるが中々うまく行かない。これだけの大物だ、時間がかかるのは承知済みでも完成度を高めたいのは人間の欲望。


 なんでこんな面倒な事を行っているかというと、今度の文化祭で出す試作品を家庭科室の燻製器を使って色々試しているんだ。

 燻製は酒のツマミやおかずになるから、我が料理部の貴重な収入源なのだ。


 ただ、例によって俺は芸能人並に顔出しNGなので、誰もいない時間帯を見計らって部長達を手伝っているから手間が掛かっている。

 俺の正体がバレると色々困るのではないかと見越して正体を隠している。三年生達は大丈夫だと太鼓判をしてくれるが今一つ自信がない。俺のせいでもし料理部が廃部になったら、色眼鏡なしで受け入れてくれた部長名に死んでも詫びきれない。

 だから結果を出して俺も料理部の正式な一員になるべく、こうして燻製器前で追加分の燻製用サクラチップを投下するタイミングを測っている。

 けしてにらめっこしている訳じゃないのだ。


 ——ホームルームギリギリまで粘った俺は教室に入り席につく。窓際の一番後ろが俺の席。騒がしかった室内は静寂になり、クラスメイト達は貴重品を扱うように俺を避ける。ならば割れ物注意とでも貼っておこうか本気で悩む。

 そんな中、


「海ちゃんおはようさん! 白石に聞いたばい。苦手なソウルイーター先輩と遭遇したんだって?」

「おはよう黒川。相変わらず騒がしいな」


 浮き沈みが激しい俺とは真逆に天地無用を地で行くタフガイ黒川康彦は、俺の肩を気安くパンパン叩いた。

 こいつも中学からの悪友で白石と俺と三人で良くつるんでいる。

 標準語になりつつある博多弁を話すが、たまに何言っているのかわからない時も。


 前の席がこいつなのでいつも賑やかだ。クラスのムードメーカーも兼任しているので、俺が完全に孤立しないのは黒川のお陰と言っていい。ブレーキかけないといつまでもテンションが爆上がりは難点だけど。

 なので本来のまとめ役クラス委員長五十嵐は煙たがっている。当たり前だ。

 それでなくても図書館が似合う大人しいメガネ女子なので、あのやかましい陽キャラ黒川とは対極の立場にいる。

 顔はまあまあのイケメン。性格があれなので二枚目半。俺は敬愛を込めて残念イケメンと呼んでいる。

 髪は茶髪で制服のボタンは開けていることが多い。


「それは海ちゃんが静かすぎるからたい。またアウトローオーラ出てるとよ。中身は世話好きオカンなのにソウルイーター先輩も見る目がなかね」

「誰がオカンだ。俺は普通の高校生だぞ」

「じゃあ、その手に持っているのは?」

「毛糸玉だが……。寒がりな妹だから今のうちに毛糸パンツと靴下編んでおこうとおもって」

「普通の高校生は裁縫とか毛糸とか工芸品とかバイトでもない限りそんな事しなかぁ。見た目はチャラ男、中身はオカン、それが蒼山海青なり。というか、金を払うから俺のセーターも頼むけん」


 高いぞと脅すと友人価格で提供してと泣き落としにかかる。嫌なやつだ。俺の大事な時間を妹以外に費やしたくないのだが……。

 ちなみに俺は裁縫部と料理部に所属しているのでここで編み物やろうと違和感はない。ただ、不本意だが俺は噂で女目当てで入部後カモを物色しているとか、または在籍しているが出てこないで女子生徒を脅して悪い道に引き込んでいるとか悪い風評被害が絶えない。


 実際はバリバリ参加しているが人付き合い苦手なので通信教育にしてもらっていた。部活動を撮影してもらったり、ビデオ通話で料理や裁縫を教えてもらったりしている。

 朝方家庭科室を開けてもらって課題の料理作って提出しておくのが日課。


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