第百十六話 別世界の人
「……これって。ジィン!」
「ええ、間違いありません……!俺達と同じ世界の……!」
「何か、分かったのですかな」
「ん。ムーア先生、これ、ジィンお兄ちゃんとガラテヤお姉ちゃんが昔生きてたところの人の手紙」
「なっ……二人の他にも、そんな人間が……それもよりによって、アンドレアが!」
「錬金術師アンドレアが……別の世界の人間だったと言うの?」
「ええ。この部屋といい、パワードスーツやビームガンを作る発想といい……俺とガラテヤ様が生きていた世界、それも手紙に書いてあった情報から、割と近い時代に、俺達と同じ世界から、この世界へやって来たことを疑う余地はありません」
前世の話を知っている皆は、目を丸くして仰天している。
「ビームガンなんて、夢の武器だものね。この世界で錬金術師になれる人間が、作らない理由は無いというところかしら。大和くんも昔、ロボットが出てくるアニメを物珍しそうに観てたっけ……」
「久しぶりに呼んでくれましたね、その名前。前世の道具を見て、思い出しちゃいましたか?」
「そ、そうかもしれないわね……。私ったら、前世に未練たらたらなんだから……どこかで区切りをつけたと思ったのに。どうせ戻れない前世のことを気にしないように、どこかで思い出に蓋をしてたのかもしれないわね」
「何だよ。前世とやらを持ってるってのは、それはそれで大変そうじゃねェの。二回目の人生を味わいたいと願った人間なんざ、それこそ死ぬほどいるだろうってのに、贅沢なもんだなァ」
「前世があるならあるで、人生の長さは相応に感じるよ。でも、気にすることも倍くらい出てくんだよ。あと、単純に前世の世界を思い出して寂しくなる」
「クレープが恋しくなるわね。食べ物のこだわりが強かったり、ホームシックになりがちだったりするなら、転生はオススメしないわ」
こうして前世のことを話していれば話しているほど、過去が恋しくなる。
俺とは違って、前世のことを気にしていないかのように振る舞っていたガラテヤ様でさえ、実際に前世で当たり前のように使われていたものを見ると、目を背けることはできなかった。
それほどまでに、俺達にとっての前世は、今の命で体験してきたものではなくとも、大切な人生だったのだ。
俺は言わずもがなだが、ガラテヤ様の表情が、その想いを物語っていた。
もし、この世界に意味の無い転生があるのならば。
俺はしばらく、命というものについて考える時間を要していたのだろう。
しかし、手紙に書いてあった「神様」や「使命」についての言及。
俺には、俺とガラテヤ様の転生が、輪廻転生とされる命のシステムの仕業であるとは、あまり思えなかった。
「……今ここで聞くのも空気が読めていないかもしれないけど。これから、どうするつもり?」
「いいんですよ、ケーリッジ先生。俺達が勝手に感傷に浸っていただけですから。……そうですね。とりあえず、街に戻って……アンドレアが残した暗号について調べましょうか。目的地は、それから決めます」
「そうね。とりあえず、『ゴリアテ』……多分だけれど、あのパワードスーツの使い方をやみくもに探す必要はなく無くなったってことだし」
「わかった。それと、『信奉者達』……あの人達にも、聞きたいことがある」
「そうだな。神様とやらについて……もう少し、聞いてみるか」
俺達は踵を返し、アンドレアの手紙を別の紙に書き写した上で、原本となる手紙も持ち出し、洞窟を後にした。
それから数日をかけ、アロザラ町へ戻る。
しかし、数日前まで何の異変も無かったであろうアロザラ町、その中心に位置する大聖堂は。
跡形もなく、消し飛んでいたのだった。
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