第百四話 悩める射手 中編

 翌日。


 俺、ガラテヤ様、ファーリちゃん、ケーリッジ先生の四人は馬車に乗り、カルテューナ錬金術研究所跡へ向かった。


「まさか、またこの辺に来ることになるとは」


「もはや懐かしさまで感じるわね。二回目だけど」


「おいら達も昔、ここで廃材探してた」


「へー。猟兵時代から来たことはあったのか、ここ」


「ん。珍しい形のお皿とか石とか、いっぱいある」


「大丈夫かしら、それ……爆発しない?」


「今んとこ大丈夫」


 ファーリちゃんの仲間達は、ベルメリア領の用心棒として雇った訳だが……一度、ランドルフさんに危機管理研修を行なうよう提案してみても良いかもしれない。


「……改めて皆、ありがとう。私のワガママに付き合ってくれて」


「いいんですよ。仲間の強化手を貸すのは当たり前ですから」


「……おいらとしては、ちょっと抵抗ある。自分から強化人間みたいになろうとする人、初めて見たから」


 そして、ファーリちゃんは少し下を向き、不安そうに指をいじっている。


 人間を強化する技術と、錬金術が関係するとは必ずしも限らないだろう。

 しかし、かつて錬金術が科学の発展に大きく貢献したのは確かであり、その恩恵は技術もまた、多分に受けているのは確かなことだ。


 かつて強化人間として改造された時代の記憶を思い出したファーリちゃんとしては、まさに物心つく前のトラウマを抉られる思いなのかもしれない。

 そう考えると、ファーリちゃんについては、俺が嘘をついてでも来させないようにしておくべきだっただろうか。


「怖がらせちゃってごめんなさい。でも、もうなりふり構っていられないのよ」


「ん、分かってるつもり。先生も、頑張ってる」


「分かってくれてありがとう。錬研跡に着いたら、一通り中を回って使えそうなものを探しつつ、何か隠し通路みたいなものがあるかもしれないから、そこも念入りに探して……」


 錬研……あるんだ、そういう呼び方。

 この世界に生まれて十六年経つが、「ナントカ研」という略称は浸透していないのか、聞いたのは前世ぶりである。

 或いは、こういう人が新しい略称の発端になるのだろうか。


「おっ、そろそろですよ。とりあえずくまなく探すってことですよね。じゃ、降りる準備しましょうか」


 俺達は大きめの皮袋を背負い、カルテューナ錬金術研究所へと向かった。


 しかし。


「……なんにも無い」


「壁ごと無くなってないかしら、これ?」


「前からこんなでしたっけ?」


「いえ。現役(冒険者)時代に調査で訪れた際にも、こんなことにはなっていなかった……ガワ以外が全部スッカラカンよ」


 ファーリちゃんを探して訪れた際には、埃と道具が散らかっていた研究所跡は、もぬけの殻どころか、外観以外はまさに壁や天井も含めて「空っぽ」になっていたのだった。

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