第百二話 たのしい工作
五時間後。
すっかり日は沈み、酔っ払いの騒ぎ声が聞こえるようになったくらいの頃である。
「よし。こんなもんかな」
「ん、試作は終わり」
「あらヤダ……思ったより種類多かったワね」
目の前には、様々な道具が並べられている。
鉤縄、煙玉、吹き矢、トリモチ……元寇の際に使われたらしい、「てつはう」という手榴弾のようなものも、戦時中に残っていた文献の情報がソースではあるが、作ってみた。
「ここにいない皆にも使い方がわかるように、書いて残しておく。てつはうっていうのは、よくわからないから……ジィンお兄ちゃんが書いて」
「オーケー」
アドラさんは作った武器を種類ごとに並べ、俺とファーリちゃんが、それぞれの使い方を紙に書き、人数分の説明書を作る。
鉤縄というのは、先に爪のようなものが付いているロープのことである。
壁や崖に引っ掛けて登ったり、谷や川の向こう岸に引っ掛けて綱渡りをできるようにしたり、という使い方が一般的だろう。
煙玉は、叩きつけて煙を発生させるものであるが……ピンポン玉で作ることができるという話を聞いたことはあるものの、この世界にピンポン玉などあるハズも無いため、火薬をはじめとした、それっぽい材料で作ったら、たまたま成功したというだけのものである。
吹き矢は、いわゆる普通の吹き矢であった。
パイプの先端に矢を付け、息を吹いて飛ばすアレ、そのまんまである。
毒薬を塗ったり、唐辛子を塗ったり……いろいろと細工はできるだろうが、悪魔に通じるものだろうか。
先端に銀を塗った矢であるとか、聖水をぶっかけた矢であるとか……そういう悪魔に効き目がありそうなものを用意しても良さそうである。
トリモチは、強力粉を練ってネバネバにしたものである。
この世界において何が薄力粉で何が強力粉なのかは分からなかったため、アドラさんに調達してきてもらった次第である。
保管と持ち運びが大変そうだが……それは、そもそも長期保存をせず、いざという時は強力粉を持ち歩き、戦場で作るという方法に甘んじることとした。
そして、問題のてつはうである。
しかし俺も、てつはうに関しては文献でしか知らない。
というのも、俺は鎌倉時代になる前に死んでしまった身であり、実際に元寇でてつはうを見る事も、戦場跡でそれらしき残骸を見つける事も、当然ながらできなかったのだ。
一応、丸くて深めな器を二個繋げたものの中に火薬を入れ、導火線を引いてみたところ、爆発はしたのだが……改良の余地はありそうである。
あわよくば魔法の力を使い、ピンを抜いて投げるだけの現代的なグレネードに一歩及ばないくらいまでの性能にはしてみたいものである。
どうしたものか、こうして作ってはみたものの、いまいちパッとしない。
実用性が無いことはないだろうが、やはり道具に甘える余地は、想像以上に無さそうである。
「全部できた。でも……どうしよ、これ」
「自分達で作っておいて何だけど、どうにも戦局を揺るがすようなものにはなって無さそうだな」
「改良した方が良い」
「ロディアがしばらく襲ってこなければ、だけどな」
「ハァ~イ!二人とも!クッキーできたワよ~!」
頭を悩ませる俺とファーリちゃんの前に、大量のクッキーが置かれる。
「……これは?どうしてまたクッキーを」
「さっきのトリモチ……結局、その場で作るって話になったデショ?だから、クッキーにしちゃったってワケ!」
という訳で、試作型トリモチは今から美味しく頂くことになりそうだ。
「ああ、そういう」
「ん、んぐんぐ……美味しい。アドラさん、てんさい」
「もう食ってる……あ、これ美味いな」
「喜んでくれて嬉しいワ~!アタシの自信作なのヨ!」
「クッキー屋さんも始めたらどうですか?」
「鍛治に飽きたら考えとこうかしらネ!」
「ん。また食べたい」
こうして、トリモチだったアドラさんのクッキーを食べ終えた俺達は、試作した道具を持ち帰る。
夜遅くの帰りになってしまったが、特に守衛さんに怒られることも無く(その目を掻い潜って抜けてきたからだが)、俺達はそれぞれの部屋へ戻ったのであった。
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