第九十一話 剣を折られた騎士へ 後編

 ロディアは左手で自身の右手首を掴み、魔術の詠唱を始める。


 杖が無くなった今、ロディアはロディアができる防御体勢を敷くつもりだったのだろう。


 しかし、今のファーリちゃんを前にして守りに入るのは、あまりに悪手としか言いようが無い。


「【デモン……!」


「遅い」


 まさに雷といったスピードで、あっという間にロディアの左腕を切り落とした。


「グ……っ!?」


「もう一つ」


「アアっ!?」


 続けて身を翻し、今度はロディアの股下へ潜り込んで刃を突き立てたまま、「雷を地面に対して平行に落とす」ことで、右脚に風穴を開ける。


「……ふぅ。どう?おいら、強くなったよ」


「そ、そう、みたいだねぇ……」


 ロディア、万事休すである。


「何か、言い残すことはある?」


「……乞うご期待、ってところかな」


 しかし、その割には言葉に余裕があり過ぎる。


「そ。さよなら」


「ま、待て、ファーリちゃ……」


 俺が静止をかける前に、ファーリちゃんは再び、雷のようなスピードで飛んでいく。


「この一撃は、マーズお姉ちゃんの分。……【闢雷びゃくらい】」


 そして、ロディアの首から上は一瞬にして宙へ放り出され、そのままゴロン、と音を立てて転がり落ちた。


「おぅ……」


「ごめん、身体が止まらなかった」


 ファーリちゃんは、握ったナイフを見ながら、何かしらの違和感に気付いた様子でこちらを見つめる。


「……ファーリちゃん?何か違和感が?」


「手応えが無い。スカスカ」


「スカスカ……?まさか」


 俺はロディアの首無し死体を踏みつけ、洞窟の奥へ奥へと進んで行った。


「どうしたの、ジィン?待ちなさい、ジィン!……バグラディ!ここで、マーズを守っていて。できるわよね」


「お、おう!任せとけやァ!」


 後方で、バグラディの声が聞こえる。


 そして間も無く、ガラテヤ様とファーリちゃんが追いついた。


「ちょっと、ジィン!一体何を考えて……」


「俺の中で今、あのロディアについて二つの仮説が立っています!一つは、『例の幻覚』説。もう一つは、『あのロディアはもう、ロディアの本体ではない』説です」


「どういうこと?」


「ん……?えっと、えと」


「前者の場合は、あの時と同じ……ただの魔力の塊を相手にしていたなら、当然ながら手応えは無いハズなんです。しかし……こっちの説は、『首が取れたロディアが動いていない』以上、あんまり信じられません」


「じゃあ、後者の……アレはロディアの本体じゃあないって説が濃厚だと思ってるの?」


「その通りです。分身だとか何だとか……そういうものなのかと」


「ジィンお兄ちゃん……浮かない顔だね」


「ええ。何か、引っかかることでも?」


 俺はここで、最悪のケースを想定してしまっていた。


「……父さんが心配なんです。バグラディが言ってたじゃないですか。ジノア・セラムもここにいたって」


 革命団と合流した可能性が高く、またロディアが存在を知っており、かつ、奴が魔術で肉体や魂に細工できそうな存在。


 記憶を失って、中身が空っぽに等しくなった俺の父親。

 ジノア・セラムを、放っておくロディアではないだろう。


 父さんがキース監獄から消えているという事実。

 そして、ここに連れて来られていたという話が、俺はどうにも気になってならなかったのである。

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