第八十四話 生き証人

「こちらにも事情があるの。恩を押し売りするようで悪いのだけれど、今目の前にいる敵を倒すのに協力するから、こちらにも少し協力してもらうわ」


 ガラテヤ様は最前線へ飛び出し、バグラディを襲っていた人間の左側頭部へ飛び蹴りを喰らわせる。


「ハァ、ハァ……フン、そういう事かよ。俺に加勢したってことは、大方この山に革命団の残党がいると踏んで来たな?」


「その通り。そして、革命団との戦いから行方不明になってた君を利用すれば、絶対にヒントをもらえるって思った。だから、死なれたら困る」


「良い度胸だなァ。だが、それで俺は助かるのも事実だ。良いだろう。テメーらの言う通り、利用されてやるよ。だから……」


「だから?何だよ」


 バグラディは限界が来たのか、斧をその場に落とし、続けて膝から身体も崩れ落ちた。


「今回ばかりは力を貸してくれ」


 かつての威勢はどこへやら。


 今、目の前で地に伏す弱ったバグラディは、いかにもただの青年である。


「契約成立ね」


「終わったら、たっぷり役に立ってもらうからな、バグラディ!」


「本当に今回ばかりは頼む」


「……マジで気乗りしないけど、何かここでブチギレて頭蹴っ飛ばしたら俺が悪い奴みたいだから協力するよ」


 ガラテヤ様を痛めつけたことは未だに許せていないが、こんな姿を見せられては、流石の俺も折れざるを得なかった。


「仕方あるまい。私も騎士だ。いくら輩とはいえど、戦う意思が無い人間を見殺しにはできない。それに……ハッ!……ふぅ」


 片手間に敵を蹴り飛ばし、マーズさんはバグラディの肩に手を添える。


「な、何だよ」


「私はもう一度、君と戦いたいと思っていた。遠征の時、私は途中で負けたからな」


 マーズさんは土の上で倒れていたバグラディを抱えて草の上へと運び、下ろしてやっていた。


 恥ずかしかったのか、バグラディは抵抗しようとしたが、一応は敵であるハズの自分を心から心配しているマーズさんを顔を見て、振り払う事など出来なかったのだろう。


 意外にもすぐに大人しく運ばれて行ったバグラディの姿を見て、一瞬だけ「彼も完全にイカれたワガママ野郎では無かったのかも知れない」という温情を抱いてしまいかけた事は、墓場まで持っていく秘密とすることにした。


 比較的、久しぶりの対人戦。


 複数人で相手しているとはいえ、相手はあのバグラディが防戦を強いられる程度には腕が立つ人間だ。

 特に技を使うまでも無かったボブゴブリンとは訳が違う。


 俺は全身に満ちる魔力を改めて練り直し、霊の力は使わずとも、本気で戦う程度には魔力を使っても、特に問題は無いことを確認する。


 ガラテヤ様の力を借りて生きている以上、最悪の場合、以前までの世界よろしく魔力無しで戦うことも視野に入れていたが……どうやら、風しか使わない分には気にしなくても問題は無いようであった。


「風牙の太刀……【風車かざぐるま】!」


「ぐぁぁ!」


「うぉぉ!?」


 思っていたよりも手応えは大きい。


 生きていくために最低限必要な魔力はガラテヤ様に依存しているが故に、剣術はともかく魔力及び霊力が絡む技に関して、対象のパワーダウンは覚悟していたが……。


 命が文字通り繋がったことで、何らかの反応が起こったのか。

 むしろ魔力を使った技も、気持ち程度は強くなってまったのではないかと思う程に、風の勢いは弱くなるどころか強くなっていた。


「ガラテヤ様、何でか分かりませんけど俺、ちょっと強くなってます」


「あら、奇遇ね。私もさっきから、力が扱いやすい気がするの。私達、やっぱり相性良いのかしらね」


「そういうのあるんですか?」


「さあ?」


 何かしらの相性が良い二人の命が繋がると、魔力を扱いやすくなったり、出力が強くなったりする……なんて話は聞いたことが無い。


 そもそも、こうして誰かをペースメーカーにして生きている人間の存在も、俺以外には知らないというのに。

 俺とガラテヤ様の間で何かが起こっているのか、はたまた、しばらく休んだことで魔力を扱う上での変なクセが抜けたのか。

 まだまだ、俺の蘇生絡みの件について考えなければならない事は多そうである。


 俺達は特に苦戦することなく数人の敵を撃破し、紐を使って木へ縛りつけるに至った。


「ハァ、ハァ……助かったぜェ……」


「お安い御用ね」


「じゃ、今度はおいら達に協力してもらう番」


「俺達と面会してから今に至るまでの事、全部教えろ」


 もしかしたら、この期に及んで裏切られるかも知れないと思い、俺は一応、刀を離さずにバグラディへ迫った。


 しかし、拍子抜けする程にバグラディは素直で。


「分かった。……だが、テメーらがフラッグ革命団と戦うまでは牢獄に閉じ込められていただけで、何も話す事は無ェ。だから、その後からの話になるぜ」


 周囲を囲む俺達に、バグラディはこれまでの経緯を話し始めるのだった。

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