第七十一話 予想外の遭遇

 ガラテヤ様が謎の力場を発見してから、さらに半日が経とうとした頃。


 山頂へ向けて歩き出した俺達は、ようやく一息つくことができそうな場所を見つけ、そこで休んでいた。


「……この道で、合ってるのかな」


「さあ……ずっと登ってる気がするから、合ってるとは思うのだけれどね」


「方角を確かめるにも、そういう機械も無ければ太陽も見えないし……方角が分かったところでどこに行けば最短ルートで下山できるかも分からないしなぁ……」


「大丈夫なのか、私達は……」


 募る不安、減っていくリソース。

 行方不明者を捜索しようと王都を出たというのに、なんなら俺達が捜索されるべき側になってしまうとは。


 ここで力尽きることだけは避けたいところだが……こうも上手くいかないと、最悪の結末が思い浮かんでしまうのも無理はないだろう。


 もう、日も暮れてきている。

 この時間から次の休憩所になり得るスペースを見つけるまで動くには危険であるため、今夜はここで寝泊まりすることになるだろう。


「さあて、どうしたものか……」


 俺は持ってきた干し肉を齧りながら、次の水筒に手をつけた。

 ここに魔法を使って水を出すことができる人間がいないというのも、前世と比較した際にアドバンテージとなる部分を結果として無視することになってしまっているだろう。


 この世界には、前世と比べて科学技術が発達していない分、魔法による技術がある。


 前世にはそれが無かった分、この世界のそれが発達しているのか否かは分からない。

 しかし、少なくとも前世の科学技術にも近しいことや、それ以上のことができる魔法も無くはない。


 ……であるにもかかわらず、このザマである。

 技術は使い手や使うモノが無ければ当然ながら使えないが、魔法にも全く同じことが当てはまる。

 バランス感覚に乏しい人間が、車は運転できても自転車に乗れないように、水魔法を使えない人は、他の魔法なら使えるかもしれないが水魔法は使えないのだ。


 まさか、ここで前世と変わらない現実を突きつけられるとは思っていなかった。

 一般人が三人集まっても、文殊の知恵は出るがアスリートにはなれないのである。


「ジィン。今日はとりあえず寝ないか?私が見張っておくから、ファーリちゃんとガラテヤと一緒に寝てくると良い」


「ああ……マーズさん。ありがとうございます。じゃあ、ちょっとだけ……。眠くなったら言ってください、代わるので」


「ありがとう、ジィン。それじゃあ、お休み」


「お休みなさい」


 俺はマーズさんに促され、ガラテヤ様とファーリちゃんが眠っていた草の上に寝転び、ひとまず仮眠を取ることにした。


 こうして山の中で草の上に寝たのは久しぶりだ。


 似たような状況で特に印象深いのは、平安時代に任務で東北の山奥へ足を踏み入れた時だろうか。

 あの時も、仲間達と一緒に山の中で雑魚寝したものだ。


 比較的平和であったと言われる平安時代、しかし鬼退治が有名であるように、人ならざる怪物が絡む事案は、他の時代よりも多かったそうである。

 そして実際に、強力な「風牙流」の使い手である俺達は重宝され、何度もそういう案件に関わったものだ。


 蘇る懐かしい記憶と共に夢の中へ旅立つ。


 しかし、慣れない環境と硬い地面では落ち着いて寝ることができなかったのか、三時間と少しで目が覚めてしまった。


 特にやることも思いつかない俺は、早めにマーズさんと見張りを交代して、切り株に座り込む。


 常に薄暗いこの森に感じる違和感。

 ただ居るだけでも悪寒がする上に、何か不自然な空気を感じる。


「……ん?」


 刀を構えながらガラテヤ様達が寝ている場所の周囲を見回っている俺の耳に、三人の寝息や寝返りとは違う「ガサッ」とした音が入り込んだ。


 距離は数十メートル程度。

 そう遠くない。


 魔物にしては、音に理性を感じさせる冷静さがある。

 人間だろうか?しかし、こんなところに別の人間がいるとは信じられない。


 俺は刀を構え直し、恐る恐る音の鳴った方へ足を進める。


 すると、そこには。


「……や、やあ……久しぶり……何か食べ物持ってない?」


「……は?」


 先の戦いで行方不明となっていた、ロディアの姿があった。

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