第五十六話 強化人間部隊
向こう側で合わせていた何かのタイミングがあったのか。
ラブラ森林から、一斉に人影が飛び出す。
「な、何……ぁっ」
瞬く間に、横で魔法をブッ放していた冒険者が腹部に張り手を受けて、まるでトラックにでも轢かれたかのように後方へ吹っ飛んでいった。
「これは……ファーリちゃん!マーズさん!気をつけて!こいつらヤバい!」
襲いかかってくる強化人間に、俺もファルシオンとバックラーで応戦する。
「そうだな……!何なんだ、この奇妙な人間達は……!」
「【
マーズさんとファーリちゃんも、それぞれ大剣とナイフで攻撃を逸らしつつ、しかし一向に掴めない動きに、戸惑いを見せていた。
ガラテヤ様とロディアは後衛であるため、こちらの動きを見ていれば、敵が只者では無いということくらいは解るハズだが……かといって、それに対処できるかは、全くの別問題だろう。
こちらは今、強化人間達に力押しされている状況なのだ。
この状況において最も主要な問題は、如何にして強化人間達を抑えるかである。
数にして数十人。
その一人一人が次から次へと冒険者を蹴散らし、血痕と肉片が確認できることから、既に死人も出ていることは明らかだろう。
冒険者達がやられる前に、俺も強化人間を叩きに行きたいところだが……戦闘中に強化人間達が後衛まで抜けてしまった際にガラテヤ様が危なくなってしまう以上、迂闊にこちらから手を出すこともできない。
バネラウス司教とサネレート支部長補佐も、魔法で後衛から雑兵の狙撃こそ行っているものの、強化人間には掠りもしないといった様子であった。
「ヒャッハァ!喰らえェェェェ!」
「リオ。そんなに騒いでは品が無いよ」
「いいんだよ、ケレア!アタシは『無敵』なんだ!」
「やれやれ。君は強いけれど、その力は過信しない方が良いよ?僕達は人の手が加わって強くなった人間なんだからね。ケイブ、君も何か言ってやってよ」
「関係ねェさ。強けりゃ、それが『生き物として正しい在り方の答え』だろうが」
「はぁ……頭が痛いね」
強化人間達は喋りながら、舌を噛むどころか傷一つつけられずに冒険者達を蹴散らしている。
中には、俺達より上位であるCランク、Bランク、さらには戦闘に関する技術や知識が著しく秀でていることを証明する「守護冒険者」のライセンスを持つ冒険者もいるらしいが、まるで意に介さないといった様子である。
あのケレアという男は、水属性魔法の使い手だろうか。
足元へ常に氷を張ることで、地面を滑走しながら冒険者達を斬り捨てているようだ。
リオという女は、炎で鞭を作り出し、襲いかかる冒険者を薙ぎ払っている。
そしてケイブという男は、土属性の魔法で辺りの地形を変えて足を奪った後、石を飛ばして冒険者達を倒していた。
確かに、彼らは一人一人が人間離れした実力を持っているようだ。
身体能力も、魔力も、少なくとも一般人のそれでは無い。
ランク及びライセンス的に「強い」とされる冒険者は目立ってこそいるが、強化人間の人間離れしたスピードと移動方法は、この目で追うことを身体の方から諦めてしまうようなものである。
それについていくことができている冒険者は、その中でもごく一部といった様子であった。
正直な話、俺も全力で動く強化人間の姿を目で追いきれているかというと、短い時間ならともかく、それを長時間続けるのは無理であるとは思う。
さて、どうしたものか。
ロディアにガラテヤ様を任せるのも良いとは思うが、それだと中距離での戦いが心許なくなってしまう。
ファーリちゃんを下がらせてガラテヤ様の護衛に回し、俺とマーズさんで前衛をサポートしつつ、ロディアには遠距離射撃に徹してもらう。
「ファーリちゃん、下がってガラテヤ様の護衛を!」
「分かった!代わりに今戦ってるヤツをやって!」
「任せろ!」
配置変更の旨をファーリちゃんに伝え、彼女と戦っていた強化人間を俺が引き受ける。
「私、と、戦う、つもり、ですか?」
「ああ。ここからは騎士ジィンがお相手させてもらおう」
要所要所に間を空けて喋るこの少女は、ファーリちゃんよりも少し大きいくらいの、それでも小さい身体を生かした高速戦闘でで敵を撹乱するタイプの強化人間だろう。
とてもではないが、飛んだり跳ねたり、時には股下を潜ろうとしたり、そんじょそこらの人間がするような動きではない。
「さっきの、子……筋、ありますね。お仲間、ですか?」
「ああ。ちょっとしたことから、面倒を見なきゃいけない責任ができちゃってね」
「……あの子、とは、もっと、戦い、たかった。でも、これは、遊びじゃ、ない。貴方で、我慢、します」
「そりゃどうも。でも、不満なら降参してくれれば見逃して、後でファーリちゃんと模擬戦する時間くらいなら俺の権限で設けてあげるけど……どう?」
「遊びじゃない、から。降参は、できない」
「そっか……残念だ。……君、名前は?」
「……『ナナシ』。捨て子で、名前が、無かった。だから、『ナナシ』、です」
「『ナナシ』か。武士っぽくて良いや」
「ブ、シ?」
「ああ、気にしないで。……君は他の人達よりもまともっぽくて良かった。安心して戦える」
「私、も、皆でより、一対一で、戦う、方が、好き。貴方、とは、気が、合いそう」
「俺もそう思ったところ。……でも、そう時間もかけてられないから……できれば早く決着をつけたいところだね」
「私、は、いっぱい、戦いたい。時間稼ぎにも、なります、から。負けても、貴方を、消耗、させられ、ます」
「そうさせないように戦うさ」
「いざ、勝負」
「望むところだ!」
俺がファルシオンを構えると、ナナシは飛び上がって刀を抜いた。
ナナシが持っている刀の刃を見ると、かつて平安武士として生き、死んだ記憶が蘇ってくる。
日本刀によく似た刀を見るのは久しぶりだ。
そして、このような刀を持った相手と本気で刃を交えるのは何十年ぶりだろうか。
空中から襲いくる刃をファルシオンで受け止める。
心臓の鼓動が響く。
俺の全身に、久しく鳴りを潜めていた武士の血が駆け回ろうとしていた。
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