第四十三話 鬼狩り

 全身に炎を纏い、バグラディはさらに力を増す。


「さっきより力が増している!皆、気をつけろ!」


「やれやれ、僕も少し本気出しちゃおうかな……ッ!【デモンセスタス】、展開!」


「【電光でんこう……」


「【さつ……」


「【エン……


 ガラテヤ様は右腕に風を纏わせて飛び上がり、「殺抜さつばつ」の体勢へ。

 一方のファーリちゃんはバグラディの背後へ回り込み、ナイフを構え直す。


 それに合わせて、バグラディは斧に纏わせた炎を強化し、構える。


石火せっか】!」


ばつ】!」


灰阿パイア】!」


 そして、自身の周囲へ炎の渦を巻き上げながら回転斬りを繰り出し、ガラテヤ様の右腕とファーリちゃんのナイフを同時に弾き飛ばした。


「きゃっ!」


「うぉっ」


 傷は何とか避け、彼女らの高い戦闘センスが光る受け身によるカバーでバッジも破壊されなかったのか、ガラテヤ様とファーリちゃんは吹き飛ばされるだけで済んだ。


 しかし、あの一撃をまともに喰らってはひとたまりも無いだろう。

 延焼する炎を纏わせた斧による回転斬り、「炎灰阿えんぱいあ」。

 これが彼なりの未来を具現化した技ということだろうか。

 だとすれば、尚更彼の思い通りにする訳にはいかない。


「デモンセスタス!突撃ーーーッッッ!」


 後方から、ロディアが闇の魔力から生成した巨大な両手を向かわせる。


「フンッ!ハァッ!」


 バグラディはその闇によるダメージを全身に纏わせた炎で相殺しながら、いとも容易く両手の甲を飛び越えた。


「そんなこともあろうかと……!戻ってこい!そして……爆発しろ!」


「……ッ!?」


 しかしロディアは腕を引き戻して、自身を巻き込むように、両手に込められた大量の魔力を爆発させる。


「ロディア!」


 ほぼ自爆に近い形であったため、自分の魔力であってもバッジの破壊までは保証できない程の衝撃を受けていても仕方はない。


「ふぅ。……危ない危ない」


「無事か!?」


 ……と思っていたが、ロディアはその場に傷一つ無く立っている。


 一方、バグラディの姿は見当たらない。

 爆発と共にバッジが反応し、講堂へ戻されたのだろうか?


「大丈夫大丈夫、僕は無事……」


 そう思ったのも束の間。


「まずは、一つ」


「なっ」


 ロディアは背後へ回り込んでいたバグラディによる一撃を背中に叩き込まれ、バッジのバリアが反応すると同時に、講堂へ転移させられてしまった。


「……闇の人、全然無事じゃなかった」


「次はお前だ、ガキ……」


「猟兵相手にいい度胸。殺す覚悟でいく」


 斧を構え、ファーリちゃんへ突撃するバグラディ。


「ガァァァ……。喰らえ、【炎灰阿エンパイア】」


「同じ手は通じない」


 しかし、ファーリちゃんは宙返りで後退しつつ、木と木の間を飛び回り始めた。


「グゥゥ、ガァ!どこだァ!」


「ここ、ここ、今度はここ、こっちこっち」


 完全にファーリちゃんのペースである。

 身体が柔らかいのか、風を纏っていないにもかかわらず、野猿顔負けの機動力を見せる。


「これならどうだ……。【怨禍えんか】ァァァァァ!」


 バグラディはファーリちゃんに機動力でついていくことを諦めたのか、周囲を焼き尽くす炎の渦でファーリちゃんを炙り出す作戦に切り替えたようである。


 剣が当たらないのならば、手榴弾で爆破する戦い方と同じだ。

 そして、素早い動きは範囲攻撃に効果が薄い。

 このバグラディという男、果たしてどれだけの命を狩るつもりなのか。

 全身から漏れ出す炎が、怨念の塊に見えて仕方が無い。


「マズい、ちょっと退く」


「逃すかァ!」


 炎の中を駆け抜け、バグラディはファーリちゃんを追う。

 しかし、ファーリちゃんは相も変わらずのスピードで、どんどんバグラディを突き離す。


 全身から漏れ出す程の炎を纏い、スピードもパワーも段違いに上がっているハズのバグラディが、全くもって追いつけない。


「ついてこないの?」


「チッ、お前は後だ!必ず後で倒す!ゴァ、ガァァ!」


 俺達と分断される形にはなってしまったが、再び山奥へと逃げたファーリちゃんは追うだけ無駄だと判断したのだろう。

 次の狙いを、マーズさんに定め直したようである。


「今度は私か!いいだろう、相手をしてやる!」


 マーズさんの大剣とバグラディの斧がぶつかり合う。

 鈍い金属音は、草木を掻き分けて俺とガラテヤ様の耳をつんざく程であった。


 第三ラウンド。


 ロディアがやられ、後方支援要員を失った俺達による鬼狩りは、まだ続くのであった。

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