四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

第四十話 オープン・コンバット

　俺達はガラテヤ様のセンサーに引っかかった剣士の攻撃を防ぎ、それぞれ距離をとって戦うことで、一対一の状況を作り出す。

「フンッ！中々やるようだな、貴様」

「これでも騎士だからね。……それっ、やっ！【風車（かざぐるま）】！」

「ぐおっ！ごあああああああっ！」

　俺はすぐさまファルシオンの峰から衝撃波を飛ばし、襲ってきた剣士を滅多打ちにして吹き飛ばす。

「【殺抜（さつばつ）】！！！」

「【死屍舞（ししまい）】」

　ガラテヤ様は風を纏わせた腕でバッジを砕き、ロディアは闇の魔力で生成したしゃれこうべを突撃させ、気を失わせて倒していた。

「はぁっ！やぁっ！くたばれッ！」

　マーズさんも大剣を振り回し、相手を急斜面から突き落として勝利。

　やはり魔物相手でなければ、不足なく立ち回ることができるらしい。

　正直、少し心配だったが……この分なら大丈夫そうである。

「皆ーッ！！！くそッ！せめてこの子供だけでも……！」

「いいの？おいらは元プロの猟兵。ナメない方がいい」

「嘘をつけ……！？」

「ホント。喰らってみれば分かる。……【電光石火（でんこうせっか）】」

「なっ、うおおおおおおおおおッ！！？」

　そしてファーリちゃんは、俺達に隠して訓練していたのか、はたまた元から使えたのか……新技を初披露。

　いわゆる「光」に属する魔力をナイフと脚に込め、相手の全身を高速で斬りつける。

　防護バッジが無い実戦であったなら、並大抵の学生ではあっという間に肉片と化していただろう。

　この子も、ガラテヤ様に負けず劣らずの天才的なセンスを持っているのかもしれない。

「決着。ジィンお兄さん、大丈夫？」

「大丈夫……っていうか、何か前よりとんでもなく強くなってない……？」

「講義で教わった魔法を武器にぶつけてみたら強かった。大成功」

「やるじゃあないか、ファーリちゃん！騎士団に入っても苦労しない程だよ」

「ん。マーズお姉さんも、ぱわふるで強かった」

「お、お姉さん……！？この私が、お姉さん……ふふっ、ふふふ……。いいものだな、妹分というのは」

　……マーズさんの趣味が歪む音がした。

「そんな事より、僕達……移動した方が良くないかなぁ？」

「そんな事とは何だそんな事とは！……と言いたいところだが、ここは戦場だったな。何かこの位置に問題でもあるのか？」

「いやぁ、結構大きい音出てたし、居場所がバレたら面倒くさいと思ってねぇ」

　シューティングゲームでも、なんなら軍事行動でも、銃声を鳴らすと危ないという定石はある。

　確かに、ここから少し移動した方が良いかもしれない。

「それもそうだ。もう少し上に登ろう」

　俺は先頭を歩き、続けてガラテヤ様、ファーリちゃん、ロディア、マーズさんの順に並んでさらに高度を上げる。

　そして数分歩くと、少し開けた場所が眼前に現れた。

「んん……広場？」

「少し休憩していきましょ？ね、ジィン？」

「だ、大丈夫なんですか？周りから狙われ放題な気がしますけど……」

「忘れたの？風圧でセンサーを張っておけば大丈夫よ」

「そ、そうですか……」

　一抹の不安を感じながらも、俺達は切株や丸太に腰をかけた。

　折角の休憩だ、このタイミングで武器のメンテナンスを済ませておくとしよう。

　俺はファルシオンに付着した土を拭き取り、それから弓の弦を張り直す。

　これで簡易的なメンテナンスは完了。

「お疲れ様、ジィン」

　するとガラテヤ様は、他にも切株はたくさん余っているにもかかわらず、わざわざ俺の隣に腰を下ろした。

「……あのー、ガラテヤ様？」

「何かしら？」

「俺、どきます？」

「ううん、どかないで」

「そ、そうですか。でも狭くないんですか？」

「狭いからいいのよ」

「は、はぁ……。もしかして、なんですけど……俺と一緒に座りたいからここに来た、とか？」

「そうよ？何か悪い？」

「い、いえ……俺としては大歓迎なんですけど」

「なら良かった」

「……」

「……」

　気まずい。

　正直、気まずい。

　勿論、この状況は嬉しい。

　ご褒美と言っても良いだろう。

　しかし、ロディアにマーズさん、そしてファーリちゃんにまで見られているとなると……部屋で二人きりの状況のようにはいかないものである。

「ふふっ。ガラテヤは本当にジィンのことが好きなのだな」

「羨ましいねぇヒューヒュー」

「……ん」

　とんでもなく気まずい。

「ええ、好きよ？大切な騎士様だもの」

　さらに気まずい。

　だんだん恥ずかしくなってきた。

「あの、ガラテヤ様、やっぱり」

「えいっ」

「どえっ！？」

　俺が切株から立ち上がろうとすると、まるでそれを阻止するかのように、ガラテヤ様は俺の腕に抱き着いてきた。

「ちょっとの間だけ、こうさせて。ジィンの匂いを嗅ぎたい気分だから」

「俺、そんな匂います？」

「人間誰しも、その人の匂いっていうのはあるものよ」

「そ、そうですか」

　何とか話をはぐらかそうとしても、ガラテヤ様がそれを許さない。

　……こういうことは二人きりの時にやりたかったものだが……最近、俺を気遣ってか、あまり二人きりで遊びに誘ったり、部屋に突撃してきたりしなかったせいだろうか。

　よりにもよって今、リミッターが振り切れてしまったようである。

「さーて、見張りしようかなー。お二人はごゆっくりー。周りは僕達が見張っておくから、ちょっとの間だけでも楽しんでなよ」

「そうだな。友人の恋路は支えてやらねば」

「……ちょっと不服」

　三人は、これ以上見ているのも野暮だと思ったのか。

　各方向に散り、見張りを始めてしまった。

「ねぇ、ジィン」

「な、何ですか」

「こんなお姉ちゃんと一緒にいてくれて、ありがとう」

「はい？」

「早く弟離れしなきゃとは思ってるのよ？新しい人生を初めて、この機会にジィンにも素敵な人を見つける機会をあげなきゃとは思っているのだけど……私、思っているよりも甘え足りないのかもしれない」

「……俺もですよ、ガラテヤ様。何回も言ってるでしょ、また会えて嬉しいって。こうして一緒に生きていられるのが、すごく嬉しいって。だから、俺も姉ちゃんのことが好きだよ。憧れの尊姉ちゃんとしても、かわいいガラテヤ様としても」

「そ、そう。……私ね、ジィンに初めて会ったあの日から、ずっとジィンと一緒にいたでしょ？」

「そうですね」

「ジィンはいつも……大和だった時から、ずっと好きって言ってくれてたわよね」

「そりゃあ、大好きですから」

「私も……ずっと好きだったのよ。貴方の姉だった時とは違って、それとは別に……好きなの」

「……そんな事言ったら期待しちゃいますよ」

「ええ、いいわよ。……私は、貴方のことが好き。親愛も友愛も……恋愛も。全てひっくるめて、貴方が好き」

「……俺もです、ガラテヤ様。この合宿が終わったら、改めて一緒にデートでも行きましょう」

「……大丈夫かしら、それ？フラグにならない？」

「今指摘してくれたので大丈夫じゃないですか」

「そうね……そうよね！でも、私だって途中退場するつもりは無いわよ。この戦いに二人で勝って、賞金片手にハイタッチするんだから」

「ええ。頑張りましょう、ガラテヤ様」

　俺はガラテヤ様と握手をする。

　フワリと風になびくガラテヤ様の髪はいつにも増して、オーロラのように美しかった。