第三十六話 慣れない相手
ガラテヤ様との散歩を終えて、俺は自室へと部屋へ戻る。
明後日は模擬戦……否、「模擬合戦」と呼ぶべきだろうか。
それまでの間に、せめてもの悪足掻きをさせてもらうとしよう。
「……それで、僕が呼ばれたと」
「うん。俺、ロディアみたいな闇の魔法使いどころか……水で幻術を作る魔法使いとすら戦ったこと無くて。だから、傾向と対策を……と思って」
「なるほど、それは良いね。僕も君と、
「じゃあ、スリーカウントの後で空気を破裂させるから……それを合図に、模擬戦スタートで!」
「了解!」
俺とロディアは互いに十数メートル程度を意識して距離をとり、武器を構える。
「「三、二、一……」」
その瞬間、辺りに銃声のような轟音が鳴り響く。
「やぁぁぁぁっ!」
「まずは距離を詰めてくる気だね!なら……【
ロディアは杖を振り、しゃれこうべ型に固めた闇の魔力を固めて放つ。
「風牙の太刀……【風車】!」
俺は空中で風を纏わせたファルシオンから刃を飛ばして相殺する。
「流石だよ、ジィン君!なら……【デモンセスタス】、展開!」
しかし、ロディアは動じることなく杖から小さな家屋程度の巨大な拳を闇の魔力から作り出し、距離を詰める俺に合わせるように振るった。
セスタス、聞いたことがある。
拳にはめて用いる、いわゆるナックルダスターの一種であるらしいが……あくまでもこれはモチーフであるようで、ロディアが出したのは闇の魔力で形づくられた手であった。
しかし、その大きさを恐れて近づかなければ、ロディアから一本取ることはできない。
魔術師は中距離から遠距離における戦闘が得意であるというのが主な定石だ。
対して、俺が遠距離で戦う術は弓以外に無く、中距離でも「風車」か、無理をして「
中距離以上の戦いが得意な魔術師のロディア相手に、向こうの間合いで戦うのはあまりにも愚策である。
「【駆ける風】……!」
脚に風を纏わせてブースターとして用いる、いつもの戦法で一気に距離を詰めた。
「速い……でも、スピードはパワーで吹き飛ばせるのさ!」
しかし、やはり近距離はカウンターに徹しているのか、ロディアはさらに後退してデモンセスタスで地面を抉るように殴りつけてくる。
「へぇ!でも、パワーは避ければゼロと同じだよ!」
俺はそれを「駆ける風」で回避しながら飛び上がり、展開されている両手に見立てたデモンセスタスの合間を通る。
「なっ、上から……!?」
「頂きッ!」
そして、降りると同時にロディアの背後に降り立つ。
「なッ……!動作が、追いつかない……!」
「よし、俺の勝ち!」
そしてファルシオンを、そのまま首に突き立てた。
「……負けたよ、ジィン君。流石に騎士様か、強いね」
「いや、ロディアも強かったよ。勢いつけるところでつけないと、俺の方が負けてたかもしれなかった」
「うん、自分でもよく動けた方だと思った。それに、ジィン君みたいな高速で距離詰めてくるタイプの相手にどんな立ち回りをすればいいのか、少し分かったからね。次は負けないよ」
ロディアは落としていた杖を持ち、ちょうど呼び出していたガラテヤ様と交代で屋敷へ戻っていく。
「……で、次の相手は私、と」
「そういうことです、ぜひお付き合いを」
「ええ。ジィンとの直接対決……旅立ちから二年前の修行以来かしら」
「そうですね。いやあ、入学試験ではいいもの見せてもらいましたから……楽しみです」
「ふふん。ナメてるとヤケドするわよ」
「こちらも、模擬戦とはいえ手加減しませんので……心してかかってきてください」
「……でも、いいの?マーズも手は空いてるって言ってだけど」
「マーズさんとは、ムーア先生との模擬戦以来、しばしばそういう機会があったので」
呼び出したロディアとガラテヤ様は、あまり戦ったことがない二人なのである。
「なるほど、そういう事ね。……じゃあ、私も応えないといけないわね」
「ええ。……さあ、行きますよ、ガラテヤ様!」
「来なさい、ジィン!」
ガラテヤ様から、以前とは見違えるようなオーラというべきだろうか、覇気のようなものを感じる。
ガラテヤ様は弟子のようなものであるとはいえ、ちょっとやそっとでは一本取れそうに無い。
久しぶりの対ガラテヤ様である。
風と風、そして姉と弟とのぶつかり合いに、俺の心は躍動を始めた。
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