断章 「世界」
遥か昔。
かつての世界で、生物が誕生するよりも、ずっとずっと前の話である。
世界には闇があった。
高きモノは光を創ったが、しかし闇を照らす光は、矮小なものであった。
高きモノは、小さな光の中に数多の、大いなる世界を創った。
世界は空と地に分けられた。
そして、高きモノは大いなる世界に幾多の命と、流れる時間を創った。
命が巡り、増え、世界が続くようにするためである。
やがて空は陸と海に分かち、高きモノの
陸と海に分かたれた地にて、命はさらに増えた。
しかし、やがて増えた命は、同じもの達で争い、殺し合うようになった。
高きモノは、自らの創ったものを悔やんだ。
そこで高きモノは命を強いものと弱いものに細かく分け、命が正しく巡るようにした。
そして、中でも最も賢く、己に近いものに「人間」という名前をつけた。
しかし、それでも人間達は互いの賢さ故に争い、血を流した。
高きモノは、またもや後悔した。
弱い人間達は嘆いた。
彼らは自らの不幸を、報われない命に生まれたことを悔やんだ。
高きモノは嘆いた。
自らの生み出した似姿が、その生まれに悔いることをひどく悲しんだ。
弱い人間達は、高きモノの手によって新たなる命となり、報われることを願った。
そして高きモノは、それを承諾した。
極稀に、身に覚えのない記憶をもつ者が生まれることがある。
それは、高きモノによって生まれ直した、弱い人間の変わり身であった。
しかし高きモノは、それを最後に姿を消してしまった。
己の力を使い果たしてしまったためである。
中略。
やがて、世界は完成した。
多くの命を生み、また殺した世界は、長い時を経て高きモノを蘇らせる程の世界と成った。
目を覚ました高きモノは、完成したそれを「天国」と名付けた。
そこに生きる命の全ては、そこで永遠の頂を約束された。
しかし、高きモノが創造された数多の世界は、未だ成らずにいた。
永遠より弾かれし命は、またもや嘆いた。
自らの不運を、短命を、ひどく悲しんだ。
高きモノは彼らを見かねて、弱い人間達をそれぞれ違う、成っていない世界へと送り込んだ。
家族と家族は同じ世界へ、友人と友人は同じ世界へ。
共に、他の世界で頂を迎えることができるようにである。
今も数多の世界が頂へ向かっている。
しかし何処の世界も、それは遥か彼方である。
終末は訪れず、しかし命は増え、そして消えていく。
高きモノは、自らが創った世界を疑った。
そこで高きモノは、自らに人としての姿を与え、弱い人間の変わり身に聞くことにした。
自らの創った世界で、どのような人生を送ってきたのか。
何に嘆き、何に悲しみ、何を憂いたのか。
人としての高きモノは「クダリ」と名乗った。
高きところより下ったものだからである。
そしてクダリは、天に近い山に一人の青年を招いた。
目的は当然、それを知るためであった。
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