第三十三話 作戦会議
馬車を走らせること丸二日。
俺達はマハト霊山の麓にある「マハト村」へと訪れ、俺達はそこを治めるメイラークム男爵のゲストハウスへと移動した。
保健室で介抱してもらった養護教諭のサニラ・メイラークム先生の実家であると聞き、驚くと同時に安心する。
前世の林間学校で過ごした自然の家よりも少し広い建物が丸々、ウェンディル学園一年生の貸し切り。
しかし、それにしては妙に人の気配がある。
「……あ?おい!来やがったぞ!王都の連中だ!」
「同業者だな!三日後、覚悟してろよ!」
妙にこちらを敵視しているらしい同年代の子供達が、次から次へと宣戦を布告してくる。
見慣れた装いに、「同業者」という言葉。
……どうやら先生方は、やってくれたようである。
特訓と同級生の交流を目的とした遠征に見せかけた、国が支援する冒険者養成学校の他キャンパスあたる、この辺りだと……リートベル学園だろうか。
「ジィン、あの人達って……」
「……どうやら、ただの遠征じゃないっぽいですね」
「冒険者養成学校の者か?何故?」
「結構ニブチンだね、マーズさん。多分、これは……」
「うん……」
「ええ……」
「は……?」
「なんのことだろ、ガラテヤ姉さん」
三日後、と彼らは言っていた。
詳しい話は後にされるだろうが……。
少なくとも、三日後に俺たちは彼らと何かをすることとなるように、そう一方的に仕組まれていたと考えて良いだろう。
数時間後。
俺達は講堂へと集められ、予想していた通りにリゲルリット先生から今後の予定を告げられた。
「我々がここへ来た真の目的を伝える!三日後!我らがウェンディル学園と……メイラークム男爵領にある姉妹校、リートベル学園の模擬戦を行う!フィールドはこのマハト霊山全てとし、模擬戦において全ての学生が与えられる衛星型魔法盾を一つ残らず破壊された学園の敗北とする、シンプルな戦いだ!勝利した方の学園に所属する学生には、相手を倒した数に応じて特別奨学金……という名目で、賞金も与えられることになっている。……という訳でぇゃっ、だから、本番までに備えをしておけ!以上!」
リゲルリット先生、抜け目なく噛む。
「……おどろき」
「ええっ!?……え?あれ、三人とも?」
俺、ガラテヤ様、ロディアは「ほーらね」と、手を軽く上げて首を振った。
「さぁて、どうしたものかねぇ」
「どうしようかな」
晩の集会が終了した後、俺達はそそくさと自室へ戻った。
幸いにも、俺達は予備も含めた全ての武装を持ってきている。
メインウェポンとなるファルシオンに加え、サブウェポンの弓矢、さらにもう一つのサブウェポンはこの拳そのものにある。
防御武装のフルプレートアーマーとハーフプレートメイル、そしてバックラーも持参済み。
体勢は万全といったところだ。
鎧は片方しか着ることができないが、それは追々考えるとして……まずは、作戦と立ち回りを考えなければ。
「どうするの、ジィン兄さん」
「まあ、俺も予想していたとはいえ何が何だかよく分からないんだよ。作戦って言っても、他のパーティとどう協力すれば良いものか分からないし」
「それも、模擬戦とはいえ割とガチっぽい戦いだし……僕の魔法も、どう使うかなぁ」
「おいらは大丈夫。ナイフもあるし、魔法も学園で少しは覚えた」
「私も大剣と鎧は忘れず持ってきた。ムーア先生の時のようにはいかないとも」
「……ガラテヤ姉さんはいつもの軽装」
「私の武器は拳一つ。身軽はいいわよね、ファーリちゃん」
「ん」
俺達はガラテヤ様の部屋に集まり、それぞれの武装を見せ合う。
そして小一時間続いた作戦会議の結論は。
「……これでいいんじゃないかなぁ?」
「もうダメだ。私も何も思いつかない」
「ぷしゅー」
「やれやれね。結局こうするしかないのかしら」
「無理なものは無理みたいですね」
今回の模擬作戦よろしくシンプルなものであった。
パーティでの行動は前提として、ただバラけずに立ち回ること。
そして、互いの攻撃が仲間同士でヒットしないように、避け合うこと。
そしてとにかく高所をとるため、山をある程度登っておくこと。
それ以上の作戦は練ることができなかった。
そもそもよく地理を知りもしない、詳しい地図無い山での凝った作戦を練るなど無謀であったのだ。
何はともあれ、模擬戦は三日後。
俺達は武装のメンテナンスを済ませ、戦いの日を待つこととした。
……その前に。
夜が深まった頃、俺は何を血迷ったのか。
一人きり、マハト霊山へと向かってしまっていた。
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