第42話 色を失っていた。
「はあ。あなたアリーシア・エルグランデさまだったのね!?」
ふわふわなたまごがかかったオムライスを頂いたあと、おもむろにかつらを外してみせて。
わたくしの白銀の髪がはらりとこぼれたところでエヴァンジェリン様からそう声があがった。
「お初にお目にかかります殿下。アリーシア・エルグランデでございます」
相手は年下、まだ十歳だったかな。それでも王女様は王女様だ。国王陛下の一人娘。身分は完全にこの子の方が上。
「あら。初めてじゃ、ないわ。あたし貴女の結婚式の後にもお会いしてるはず」
「そう、でしたね。王女殿下はまだ幼なかったから覚えていらっしゃらないかと思っていました」
「だって、貴女、あたしの従姉だもの。覚えているわ」
そうコケティッシュに微笑む彼女。
わたくしの母、フランソワは国王陛下の同腹の妹で、早くに亡くなっちゃったお母様の事を悲しんでくれてた陛下。わたくしの結婚式にも陛下は出席してくださったし、その後ラインハルトさまと一緒に王宮に招待されてお食事もご一緒させていただいた。
その時にちっちゃなお姫様もいらしたっけ。それがこのエヴァンジェリン様だった。
「あたし貴女のお店、エリカティーナが大好きだったの。だから今日も新作を買おうとお忍びで来たのよー」
そう笑顔でおっしゃった彼女。
「ああ、でも、こちらのお店はどちらかと言ったら商家向けでございますわ。貴族向けに品揃えさせていただいている貴族街の支店もございますのに」
「ううん。やっぱりこっちの本店じゃないと扱ってない商品もありますもの。特にあたしが好きなこういうワンピースなんか、貴族街のお店じゃあまり見かけないわ」
「まぁ、それは。そちらのワンピースはどちらかといったら貴族の令嬢向けではないですからね。ミニ丈ですし、かわいいんですけど上品には見えないですから」
「あら? それがいいんじゃない。学園の同級生のみんなにも今すっごく人気なのよ。みんなおかぁ様には反対されるみたいだけど、お家で着る分にはいいわよね、って」
ふふふ、と笑う彼女。ほんと魅惑的なお顔で笑う。
ああ。マクギリウスったらこんな笑顔がいいのかな。
笑顔が好きっていってたものな。
なんだか少しだけ心が曇る。
「でもやっぱり。今日の品揃えを見て思いましたの。これはアリーシアさまが戻ってらしたんじゃないかって」
え?
「貴女がいなくなってからしばらくして、エリカティーナの品揃えは変わってしまったわ。ううん、変わらなくなったっていう言い方の方が正しいかしら。ありきたりの、それまでと同じものしか置かなくなって」
エヴァンジェリンさま、コップのお水を手にとってこくんと一口飲んで、続けた。
「いつも流行の最先端を彩っていたエリカティーナ。それがなんだか色を失ったような気がしてたの。貴女が戻って来てくれて嬉しいわ」
そうこちらをむいて満面の笑みをこぼす。
「ちょっとまて、エヴァ。お前、どこまでわかってる?」
マクギリウス様?
「あらおじさま? ブラウド商会がエリカとマギアアリアを手放したところまでは知ってたわ」
「なら話が早い。今のエリカティーナの経営者がアリーシアだっていうのは内緒だ。誰にも悟られたくない」
「黙ってろってことよね?」
「ああ。そうだ」
「無理よ。もう遅いわ」
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