ストーリー:17 対お姉さんお兄さん用最終兵器
「ふっふーん!」
いつもの部屋の真ん中で、ガラッパのミオが渾身のドヤ顔を披露していた。
「ふっふーん!!」
腕を組んで胸を張り、清流のごとく美しい水色のツインテールを揺らして。
「ま、アタシほどの妖怪にかかりゃ、こんなもんよ!」
足元で無様にのたうつ、哀れな敗北かまいたちに勝ち誇っていた。
「ありえね~~~~!!」
細長いアニマルボディをビッタンビッタンさせている、かまいたちのジロウ。
彼の所有するタブレットには、こうなった原因が表示されていた。
ガラッパのミオ。
チャンネル登録者数……2023。
「ふっふーん!!! チャンネル登録者数、2倍!」
「ぐあ~~~~~!!」
それは、ミオが視聴者たちとの対戦配信を始めて、3日であげた大戦果だった。
「知ってるか? この調子でいけば、収益化できるんだぜ?」
「しゅうえきか?」
「アタシが配信したら、視聴者が金くれるってさ!」
「な、なんだってぇぇぇぇ!?!?」
圧倒的な差を見せつけられ、立ち尽くすジロウ。
そんなジロウを足先で転がして、ミオは完全に調子に乗っていた。
「ほっほっほ、よきかな。よきかな」
「すごいです! ミオさん!」
想像以上の結果に、妖怪たちは誰も彼も浮き足立っていた。
羨ましそうに畳を転がり身もだえしているジロウだって、内心では嬉しく思っていた。
「………」
その中でただ一人。
「……ふぅ、これでよし」
ナツだけは、次を見据えて動いていた。
※ ※ ※
「ねぇねぇ、ナツ。これって何?」
それに最初に目を向けたのは、木心坊のワビスケだった。
作業を終えて一息ついているナツの後ろから、見慣れない物体を興味深げに見つめて。
「配信に使うもの、なんだよね?」
「だな」
頷くナツに促され、彼は警戒半分といった様子で手を伸ばし、物体の側面をつんつんと指でつつく。
ちょっと固い。
「お、ナツ作業終わった?」
と、そこにマウントを取り終えご満悦なミオがやってきて。
「アタシのことを放っていったい何を……」
それを視界に入れたとたん。
「ぎゃあ!?!? ……んぎゃんっ!」
びっくり仰天総毛立ち。
驚くほどの脚力で後ろに飛び退り、そのまま畳の上で尻もちをついた。
「ゲヒャヒャヒャ! どうしたどうしたミオ様よぉ? 何見てビビったんだぁ?」
「ほほーう、これはこれは」
なんだなんだとジロウとオキナもそれを見れば。
しかし、長く生きてきた二人はそれを、どこか懐かしくも見慣れた様子で納得する。
「見たのいつぶりかねぇ。西南戦争辺りか?」
「そうじゃのぅ。
「な、ななな!? なま、なまーーー!!」
冷静な古妖二人に対し、新時代の妖怪ミオの動揺は止まらない。
そんな彼女の怯える肩を、ワビスケがポンッと優しく叩いた。
「ミオさん、ミオさん。大丈夫。これ、本物じゃないよ。作り物」
「へぇあ?」
「だよね、ナツ?」
直接触れたワビスケが否定して、これを用意したナツに目を向ける。
「ん。もちろん! ワビスケの言う通りこれは作り物。配信機材。機械だよ」
信頼の目を受け取って、ナツが、答えを口にした。
「こいつは、ワビスケのことを応援してくれている数多のお姉さんお兄さんへの感謝を余すことなく伝えることが出来る、最終兵器だ!」
「最終、兵器……!?」
「そうだ、最終兵器だ」
空色の瞳が、ワビスケをまっすぐに見つめる。
「こいつを使って、ワビスケの精いっぱいの感謝の気持ちを、プレゼントしよう!」
・
・
・
ミオの新企画からしばらく。
トリックスにて告知された、AYAKASHI本舗の次なる挑戦。
『“木心坊のワビスケ”、新企画!! お姉さんお兄さんへ。感謝の気持ちを伝えます』
打ち出されたメッセージは、すでに付き始めていたワビスケのファンを大いに期待させるのだった。
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