第8話
そんな時、加奈子に友達が出来た。加奈子はその子といるのが楽しいみたいだった。私といる時と全く違う顔をしていた。
私に、友達だと見せてきた時の顔、今でも覚えている。こんな事おかしいと思った。面白くなかった。加奈子の友達も、笑っている加奈子も全て。私は、加奈子とその友達の輪に割り込んだ。私は加奈子の友達と、加奈子より仲良くならなければならなかった。でも、その子は結局私の友達ではなく、加奈子の友達だった。
だったらせめて、加奈子と引き離そうと思った。加奈子の面倒を見ていたのは私なのだ。加奈子は私が呼んだら、すぐに来なければならない。何より私を優先しなきゃならなかった。それなのに加奈子は戸惑った様な、困った顔をした。今までは笑ってついてきたのに。私は加奈子の笑った顔の何倍もその顔が嫌いだった。
中学年、クラスが分かれて初めての遠足。私は友達と食べるつもりだった。けれど母は、加奈子ちゃんと食べるんでしょうとさも当然のように言った。遠足や運動会などの行事でと加奈子は約束するでもなく、ずっと一緒にお弁当を食べてきた。
私は母に、加奈子に友達が出来た事は言えなかった。加奈子が加奈子の友達と食べるのは嫌だ。でも私は当時、加奈子を私の方に引っ張る事に疲れていた。加奈子の事は少し考えるのをよして、気分転換しようと思っていた。なのに、友達と食べると言ったら加奈子ちゃんも誘いなさいと言われた。頷くしかなかった。嫌だった。けれど、加奈子がもし私と食べる気でいたならかわいそうだとも思った。
やっぱり加奈子と食べよう、昔みたいに二人で。
私は友達の誘いを断った。
けれど当日、加奈子は自分の友達と一緒にお弁当を食べた。誘いに行ったら、私がどうして来るのか全く分からないと言う表情をした。加奈子の友達のおずおずとした言葉を、途中で切って戻った。友達に、ごめん、と頼んで入れてもらった。
恥ずかしかった。悔しかった。憎らしかった。友達からの好奇の視線、気遣わしげな目――私の存在に疑問しかない、あの目。私は強く奥歯をかみしめた。目から出る代わりに、鼻から涙が出た。湿っぽいご飯を食べながら、許せないと思った。
私を置いて、友達とご飯を食べる加奈子。
存在が消えて欲しいと思う事はあった。けれど今は私が消したいとさえ思った。
加奈子が憎らしい。でも、加奈子が私から離れる事なんてあってはならない。
胸の中のもやもやは真っ黒になって、加奈子との思い出も全部塗りつぶしてしまった。もう私は、加奈子の全てが許せなかった。放っておけばいいと思うのに、目については私を苛々させた。更に家族での集まりが、加奈子と私に嫌でも会う機会を作り続けた。私は二人きりになると、加奈子に鬱憤を全てぶつけた。皆の前では昔の様にしていたけれど、もう私には、昔の私がどんなだったかさえ、わからなかった。
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