【12/8発売】魔法使いの引っ越し屋 ~勇者の隠居・龍の旅立ち・魔法図書館の移転、どんな依頼でもお任せください~

サケ/坂石遊作

プロローグ

第1話

 数年前。

 とある王国の王立魔法学園に、それはもうとんでもない天才魔法使いが入学した。

 元々、才ある者だけが入学できる魔法学園。その中でもずば抜けた成績を収めた彼女は、名を国中にとどろかせ、将来を嘱望された。


 平民にもかかわらず、どんな貴族よりも優れた結果を出し続けた少女は、嵐のように人々の価値観をたおし、輝かしい栄光と……ちょっぴりはた迷惑な問題を刻みつつ、魔法学園を卒業する。

 しかし奇妙なことに、その少女が卒業後、何をしているのかを知る者はほとんどいない。


 なら少女は卒業した後、誰にも声をかけず、ふらっとどこかへ姿を消したからだ。

 おかげで少女に注目していた国の偉い人たちは混乱した。


「彼女はどこに行った!?」


「宮廷魔導師に勧誘しようと思っていたのに!」


「いやいや、あの知識は魔法学の分野に──」


「軍人の道も──」


 一つ分かっているのは、彼女はいずれの道も選ばなかったということ。

 宮廷魔導師、魔法学の研究者、軍人、医者、政治家……多くの栄誉ある肩書きを断った少女は果たして今、どこで何をしているのか。それを知りたがる者は少なくない。

 その噂は……やがて少女本人のもとまで届く。


「そんなにおかしいでしょうか? 私がこの仕事に就くのは」


 少女は知っていた。

 この仕事は、人々を幸せにするものだと。


 出会いを恐れる人たちへ──。

 別れを惜しむ人たちへ──。


 ──この仕事だけは、寄り添えるのだと。


「あら、いらっしゃい」


 店の扉が開き、カランコロンとベルの音が響く。

 線の細い、若い男性が入ってきた。ここに来るお客さんは皆、期待と不安をぜにしたような表情を浮かべている。案の定、その男性もどこか不安そうだ。

 そんなお客さんに、ささやかな幸せを感じてもらうことが少女の使命だった。


 少女の仕事は、出会いと別れを紡ぐこと。



 少女が営むのは──魔法使いの引っ越し屋。






※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


本作は12/8に発売する書籍の試し読み版となります。

発売日まで毎日3~4話ずつ更新していきますので、よろしくお願いいたします。


発売日まで、あと7日です。




本作をより多くの読者に知ってもらいたいため、もし気に入っていただけましたら、作品へのフォローや★★★などで応援していただけると大変嬉しいです。

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