第85話 血

「どうやら、気に入ってもらえたようじゃの。ふふふ」

 私の様子を見ていたゼスが、ひとりニンマリと笑っていた。


 そんなゼスの前に置かれたのは、氷入りのバケツで冷やされた瓶だ。一緒にグラスも置かれている。

 ゼスはその瓶を取り出し、中身をグラスに注いでいく。

 色からして、赤ワイン? いや、この匂いは……。

「これか? これは『豚の血』じゃ。言ったであろう、人を襲って吸血したりはせん、と」

 つまり、人の血ではなく豚の血で、吸血の衝動を抑えているようだ。


 グラスを傾け、美味しそうに血を飲み干すゼス。その所作は、美しくも怪しく、そして優美だ。

「ふぅ。やはりここの血は美味いのぅ。さすがじゃ、店主」

「……ふん……」

 わざわざこのために、この店に通っている訳か。納得。

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