第47話 学校祭(3)
「今日から三日に渡る学校祭がいよいよ始まるー。まあ今日は準備日を兼ねた前夜祭だがなー。最終準備しっかりやっていくぞー」
紆余曲折はあったものの、俺たちのクラスは執事・メイドカフェの準備はほとんど終わっていた。
「教室の飾り付けだけで終わりだな〜」
「ああ。そっち持ってくれ」
「おう〜」
机と椅子を運び出した空っぽの教室が勉強とはかけ離れた華々しい装飾品で埋められていく様子は、生徒たちの心の中を映しているかのようだった。
「桜花ちゃん……これって……」
「コーヒーメーカーとかは全部隣の空き教室ね」
「ん……」
ガヤガヤと騒ぎながらやる作業はあまりに進みが遅かった。だがそれすらも楽しく、日が暮れる頃にやっと完成した教室、もといカフェを見ると笑みがこぼれるような達成感があった。
「もうそろ前夜祭が始まるぞー。ぼちぼちグラウンドの方に移動してけー」
グラウンドには普段見ないような巨大なステージと本格的なスピーカーなどが並んでいる。
「えー……皆さんクラスごとに並んでください。──それではこれより前夜祭を始めます。まずは生徒会長挨拶です」
生徒会長、校長、生徒指導の教師といった順番で挨拶をしていく。だがほとんどの生徒はそんなものに気を向けている人はいないだろう。
そわそわした雰囲気の中、グラウンドのライトがブツンと消え、周囲は暗闇に呑まれた。生徒たちの間で歓声と驚きが混じった「わぁっ!」という声が漏れる。
「皆さん、校舎の方をご覧下さい!」
次の瞬間、ヒュ〜と例の音が空を斬り裂いたと思うや否や、バン! と金色の花が漆黒の中に浮かび上がった。
それはまるで
「ねえ……」
「どうした?」
夜宵が俺の袖を引き、何か小声で話したそうに手を口元に当てている。
俺はそれに釣られ、彼女に目線を合わせるように腰を屈める。まさかこれは──と俺が気づいた時にはもう遅かった。
「ん……」
「…………!?」
淡く唇が重なった瞬間、彼女は悪戯な笑みを浮かべた。
「懐かしい……ね?」
「………まあ、その……そうだな」
花火の下でこうするのは二度目だった。
皆が空を見上げる中、俺たちは二人だけの世界で肩を並べていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
校門から校舎までの短い道にはびっちりと各部活の出店が並んでいる。
教室には既に着替えを済ませて盛り上がっている生徒たちの姿があった。
「おはよう岬」
「おはよう桜花」
「コーヒーの準備よろしくね」
「ああ」
俺は焙煎機に豆をセットする。
これは店長が店と同じ焙煎機とコーヒーミルを貸してくれた。
学校祭でカフェをやると話すと店長は持っていきなさいと予備のをわざわざ出してくれたのだ。
しかも「それは気になるね!」などと、俺のコーヒーを飲みにやって来るらしい。
ここまでしてもらって手抜きなど出来ない。
「おはよう……岬くん……」
「おは──わお……」
そこに居たのはゴスロリ調メイド服姿の夜宵だった。しばらく彼女に見とれていた俺は豆を少し焦がしてしまった。
「ど、どう……?」
「似合っているよ! とても!」
「良かった……」
私服もどちらかと言うと同系統の彼女だが、教室でこの姿を見るのは新鮮だ。
「いい匂いだな〜! やってるか〜!」
バスケ部の手伝いが終わったのか健人たちバスケ部連中がやって来た。
「あれ、桜花はメイド服着ないの〜?」
「シフト表見てないの? 私とアンタは午前がフリーよ」
「あ、ああ〜! そうだったな〜!」
そして俺と夜宵が午後フリーだ。ここは桜花が上手いこと調整してくれた。
本祭一日目はメイドカフェで、夜宵がメイドで俺は裏方。二日目は執事カフェで、俺が執事で夜宵が裏方といった形になっている。
「よう健人、これ飲んでみてくれ」
俺は明らかに焦げた豆で淹れたコーヒーを健人に飲ませた。
「どれどれ……。――にっっっがい!!! なんだこれお前、これ本当に正解か〜!?」
「はあ……。これは深煎りってやつだ。お前には早かったな」
「…………!? いや、よく味わったら中々イけるな! これが大人の味ってやつだな〜! ほら、お前らも飲めよ!」
健人は他のバスケ部連中にコーヒーを渡して逃げた。
「ぐッ!? う、美味いぞ岬!」
「さ、流石だな!」
「香りから違うもんなぁ!」
……別にミルクでも砂糖でも入れれば良いのに、苦い=大人という謎の価値観に支配された彼らは、ぎこちない笑顔をしながらごくごくコーヒーを飲んでいる。
「そうかそうか! もうすぐ次のもできるから待っててくれよ!」
「いや、俺はもういいや!」
「俺も! タダで飲むなんておこがましいですよ! ははは……」
そんなこんなで準備を進めているとチャイムが鳴った。
「さあ、本祭一日目始まったわよ! 張り切っていきなさい!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
次話2024/01/07 15:30頃更新予定!
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