第38話 これからも、ずっと一緒に

『──間もなく、花火大会が始まります。チケットをお持ちの方は番号の書かれた席まで……』


「行こう夜宵さん!」


「え……」


 アナウンスが流れ彼女の話が途切れた瞬間、俺は彼女の手を取って裏山の方へ走り出した。


「岬くん……こっち……逆だよ……!」


「いいんだ! 来て!」


 俺たちは坂を駆け上がる。




「ちょっと、君たち! ここから先は立ち入り禁止だよ」


「警備員さん! 俺は岬です。神楽岬です!」


「ああ、お嬢さんのお友達か……。話は聞いてるよ。他の人には内緒だからね」


「はい! ありがとうございます!」


「いいの!? ここに来て!」


「ああ!」


 サンキュー桜花! サンキュー斎藤警備!




 警備員に通してもらった先にあったのは、今は使われていない小さな展望台だった。ここは花火を見る絶景スポットだが、スペースが狭く人が押し寄せると危ないので警備がついているのだ。

 それもこれも桜花に教えてもらった。


「……綺麗…………」


 ちょうどここに着いたタイミングで花火が打ち上がり始めた。


 今、この瞬間を逃したら、一生後悔する。

 俺は胸の高鳴りを沈め、ゆっくり口を開いた。


「……夜宵さん、聞いて欲しい」


「……はい」


「死んだような日々を送っていた俺を救ってくれたのは夜─YORU─さんだった。また家族と向き合うきっかけをくれたのも夜宵さんだった。強くなろうと思えたのも、君のおかげだ」


「…………」


「夜宵さん。いや、夜宵。これまでも、そしてこれからも、ずっと君のことが好きだ」


「……! ……私も、岬くんのことが、好きです……」


「俺と付き合ってくれ」


「……はい…………」


 花火の明かりの下、溢れた感情のままに俺たちは唇を重ね、二年と半年分の愛を確かめ合うのだった。






「それじゃあ、またな、夜宵……」


 俺は彼女をマンションまで送ってやった。


「……まだ、一緒にいたいな……なんて……」


「で、でも明日から学校だし、もう遅いし父さんも心配するから……」


「うちは……オートロックだから……安心……」


「……!」


 手を話そうとしない彼女。そしてその時俺は鞄の中に健人から貰ったの存在を思い出す。


「じ、じゃあちょっとだけ、お邪魔しようかな……」


「ん……、ちょっとだけ……ね……?」






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「──はよ……おは……おはよう、岬くん……」


「おはよう夜宵……って、今何時!?」


「まだ六時だから大丈夫だよ……。ご飯、一緒に食べていこ……?」


 ご丁寧に畳まれた昨日の服を着てリビングの方へ向かうと、パジャマ姿の夜宵はテーブルの上に朝ご飯を用意してくれていた。


「──ご馳走様! ごめん夜宵また後で!」


「うん……また後で……!」






 俺は急いで家へ帰る。


「ただいま父さん!」


「岬、朝帰りとはお前も悪い子に育ったな」


「ごめん父さん! 話は帰ったら聞くから!」


 俺は自分の部屋へ駆け上がり、制服に着替えて学校用の鞄を取ってまたすぐに階段を降りる。


「朝ごはんはどうする」


「ごめん食べてきた!」


「……ふむ。どうやら俺の息子は立派な“男”になったよう──グハッ!」


 俺は父さんのみぞおちに深い一発をお見舞した。


「じゃあね父さん! 行ってきます!」


「い、行ってらっしゃい岬……。気をつけるんだぞ……ガハッ……」






「よっす岬ぃ! おは〜!」


「おはよう健人! ……おはよう桜花。本当にありがとう!」


「おはよう岬。……その様子だと、上手くいったようね! 手助けした甲斐があったわ!」


「え? なんだなんだ〜!? お前もしかして、昨晩はお楽しみでしたね、ってやつか〜?」


 俺は冗談で笑ってそう言う健人の肩を、二回ポンポンと叩いた。


「──え? ……え、え、え〜!!!??? 嘘だろお前〜!!!」




「……おはよう夜宵。二回目だな」


「おはよう……岬くん……。二回目だね……」


「よーしお前ら席に着けー! 新学期一発目の朝の連絡始めるぞー!」






 こうして俺たちの学校生活は続いていく。


 これからの人生、きっと辛いこともあるだろう。だけど、二人でなら、どこまでも行けると、そう確信していた。





    ──── 第1部 完 ────



皆様ここまでお読み頂きありがとうございました。岬と夜宵が結ばれたところで第1部完とさせて頂きます。是非これまでの評価、感想、レビューよろしくお願いします。

ここから先は二人の恋人としての甘いストーリーが続いていきます。もうしばしお付き合いください。

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