隣の席の無愛想美少女の正体が天才プロゲーマーだと知っているのはクラスで俺だけ

駄作ハル

第一部

第1話 新学期(1)

『──ん……。あーあー……、今日も配信よろしくお願いします。……今日はこのマップの立ち回りについて、練習しつつの解説です。……このマップは右奥の丘が強いです。……だけどこっちのルートから裏取りできます。……っと、こんな感じです』




「やっぱり夜さん上手いなぁ!」


 俺はベッドの上に寝転びながら「夜─YORU─」さんの配信を見ていた。


 夜─YORU─さんは最近話題の女子プロゲーマー。女子プロでは珍しく顔出しはしておらず、配信も手元と画面のみ。

 そんな正体が一切謎の彼女だが、その腕前は日本代表を決める大会にも出場するほどの実力派。活動を始めてそれほど経っていないというのに配信サイトのフォロワーは二十万人を超えている。


 こう言うと古参ぶっているようで鼻につくが、俺は本当に彼女が有名になる前から彼女を追っており、今では毎週日曜の夜に夜─YORU─さんの配信を見るのがルーティンとなっていた。




「……その声はみさき、まだ起きているのか? 明日から新学期だろう。早く寝なさい」


「わかったよ父さん!」


 俺は「明日も早いので今日はもう落ちます! 夜さんお疲れ様でした!」とだけコメントを投稿し、彼女の配信を止めた。彼女はコメント返しはしないタイプで読んでいるかも分からないが、俺は毎回コメントしている。




 パソコンの電源を落としベッドに身を投げ出した俺はすぐに眠ってしまった。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 次の日俺は東京の満員電車に揺られ、新学期に胸を膨らませながら高校へ向かう。

 朝玄関に貼られたクラス表を見ると、二年三組に俺の名前があった。




「よっす岬! 二年も同じクラスとはな!」


 教室に入ると早速絡まれた。センターパートでスカしたコイツは、高校から同じ部活で出会った小澤健人おざわけんと。皆からはオザケンとも呼ばれている。

 軽口が多いが基本的に信頼できる奴だ。


「クラス分けの表を見た時お前の名前があって安心したよ。他のバスケ部の奴らもチラホラいるみたいだしな」


「ま、今年も仲良くしようぜ〜?」


「おう!」




「ちょっと健人、私より岬が先?」


「あ、桜花おうか……」


 今度やって来たこの女は斎藤桜花。何を隠そう、小澤健人と斎藤桜花はカップルである。




「じ、じゃあな岬〜! また後で!」


「放課後はバスケ部の集まりあるからな! 忘れんなよ健人!」


 桜花もいる場でこう言っておかないと、放課後健人は桜花に拉致られるだろう。何を隠そう、健人は桜花の尻に敷かれている。

 その点独り身は楽でいい。部活もバイトも好きにできる。




 それから他のバスケ部の連中にも挨拶しに行くなどしていると、しばらくしてチャイムが鳴った。


「──じゃ、放課後に!」


「じゃなー」


 黒板に貼られた座席表によると俺は教室の一番後ろ、窓側から二列目の席のようだ。


「よっす岬、隣だな! しかも一番後ろとはラッキーだ〜!」


「アンタはこっちだけ見てれば良いの!」


「痛い痛い桜花! 耳を引っ張るなよ〜!」


「ははは……」


 右隣が健人、その隣が桜花という中々楽しそうな席順だった。騒がしいとも言う。




「──よーしお前たち席に着けー。出席取るぞー」


「おっ! 担任じゃん!」


 生徒たちから「はまやん」と呼ばれるこのふてぶてしい中年男性は浜田聡はまださとし。去年社会科で世話になったこの教師がこのクラスの担任らしい。


「よーし。名前を読み上げるのも面倒なんで目視で確認するぞー」


 はまやんは眠そうな目を擦りながら腕を組んでクラスを見渡す。この適当さが生徒たちから親しまれる理由でもある。




「……うん? 神楽かぐらの横が空いてるな」


 はまやんは俺の名前を挙げて座席表と名簿を見比べる。


「えっとー……そこの席はだな……」


 その時、突然教室の後ろの扉が開いた。


「おい城崎きさきぃー初日から遅刻かー?」


「…………」




「おい岬! あれが例の“氷の眠り姫”様だぞ!」


「あれが……」


「別の女の話で盛り上がるな!」


「痛い痛い桜花!」


 健人が“氷の眠り姫”と呼ぶその少女はフラフラおぼつかない足取りで教室に入って来て、周囲を見渡すと迷うことなく俺の左隣に座った。




「ま、初日から遅刻付けるのも気分悪いし、間に合ったってことにしとくかー」


 彼女は重い前髪の黒髪ショートカット。その左側をピンで留めて耳に掛けている。顔はほとんどが黒マスクで分からないが、前髪とマスクの間から見える二重の下には大きな涙袋が目を引く。

 そして恐ろしいほど色白で、制服のスカートから覗く脚は走れるのか不安になるほど細かった。


 彼女は皆から注目を集めていることなど気づいてもいないかのように、窓際の席で目をつぶりスヤスヤ眠り始める。


「おい岬〜! 可愛いからって見とれすぎだぞ!」


「いや俺はそんなつもりじゃ……!」


「見とれてんのはアンタでしょ!」


「痛い痛い!」




「おうおう、このクラスは賑やかになりそうだなー。じゃ、今年はこのクラスでよろしくーってことで、始業式行くぞー」






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

あとがき


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次話▶︎2023/12/01 20:00過ぎ投稿予定

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