第39話 vs イリス


「グレイブ様、お逃げください!! この方は……」

「『あなたはしゃべれない』 お黙りなさいな」



 俺に気づいたナルヴィだったが声をあげるが、その途中で言葉は途切れて口をパクパクするだけになってしまう。これがこいつの力だろう。



「くっそ、今のは『認識改変』だと!? ナルヴィの催眠は第二段階までいってるのか?」

「おや、わたくしの力を知っているとは……あなたとはどこかでお会いしたことがありましたかしら? まあ、男の顔なんて興味ないので覚えませんが……私の名前はイリス。六奇人の一人『世界の改変者』などと呼ばれていますわ。そこの水着のお姉さんのおなまえをおしえていただけませんこと?」



 イリスは優雅な所作でお辞儀をすると俺のことにはかけらも興味がないとばかりにベロニカを見つめる。



「ふふ、よくぞ聞いてくれた!! 私の名前はベロニカ=パラス。主の愛奴隷の一人『被虐の雌犬』と呼ばれているよ!!」


ベロニカが対抗するようにして名乗りを上げやがった。



「いや、俺は愛奴隷なんていないし、お前を被虐の雌犬なんてよんだことないだろ!! 俺のイメージがどんどんさがっていくだろ?」

「なんと……あなたは雌犬さんなのですね。そんな凛々しい顔をして素晴らしい♡」



 ベロニカの頭のおかしい自己紹介を嬉々と受け入れるイリス。そういや、こいつも変態だったな……



「雌犬さんよかったらわたくしの配下になりませんこと? そこの男よりも満足させると誓いますわよ」

「はっはっは、何を言っているんだい? 私はすでに身も心も主のものなのさ!! それに……友達を傷つけた君と手を組むはずがないだろう」

「ベロニカ……」



 笑顔を浮かべながら氷のように冷たい目で即答する彼女に俺が感動しているとイリスが楽しそうに……本当に愉しそうに笑っているのが目に入る。




「いいですわね。その主に心酔してる瞳……ですが、わたくしは男女のカップルに無理やり百合のすばらしさを教えてさしあげるのが大好きですの。あなたは念入りに催眠してあげますわ♡


 

 イリスは嗜虐的な笑みを浮かべると、扇をばさりと広げて声を上げる。




「選別に生き残った新たなしもべよ。男の方はころしてかまいません、そちらの雌犬さんに真の主をおしえてさしあげなさい」

「わかりました……グレイブ様……申し訳ありません。私の主のために倒されてください」

「うお!!?」



 イリスが声をはりあげると現れたのは俺の剣の先生が窓の外からやってきてきりかかってくる。その一撃は訓練の時よりもはるかに鋭く、咄嗟に体をひいたが俺の腕をかすめて鮮血が飛ぶ。そして、彼の瞳からはハイライトがきえており、すでに催眠状態だというのがわかる。

 さして、何者かと戦わされたのか、その服は返り血に染まっていた。屋敷からは男の使用人はいなかった……まさか先生は……



「ここは私に任せてくれないかい? 主はドロシー様を頼む」

「ベロニカ……?」

「父さんはね、人を傷つけるのが嫌になって副団長をやめて教師になったんだ。それなのにこんなことをさせられてたあげく主まで傷つけてしまうなんて……なら、せめてこれ以上罪を重ねる前に私が止める!!」



 隣にいるだけだったのに感じたのは圧倒的な殺気だった。それはベロニカと初めて会った時よりもはるかに強力で……それだけ彼女が本気だという事はわかる。



「わかった。だが、お前は俺の騎士だ。だから命令を忘れるな。俺の恩師であるお前の父を殺さず救ってくれ。まだまだ色々と習うことがあるんだよ」

「主……」



 ベロニカは大きく目を見開いて、そして凛々しく微笑んだ。



「まったく、我が主はいじわるだなぁ。自分よりも格上を殺すのではなく生け捕りを所望するとは……」

「無理な命令な方が燃えるだろ?」

「まかせたまえ!! その代わりご褒美を楽しみにしているよ!!」



 すさまじい速さで剣が交差するのを横目に俺は余裕たっぷりにしているイリスの方へとすすむ。隣にいるドロシーはすでにハイライトの消えた目で虚空をみつめていて……



「おやおや、もう遅いですわよ……この子は私の催眠は完全に堕ちましたわ。第二段階『認識改変』今のこの子はわたくしがもっとも愛おしい人に見えておりますの」

「ドロシー!! 正気に戻れ!!」

「……」



 俺の声に一切反応のないドロシー。そして、イリスが彼女の耳に優しく、蠱惑的にささやく。



「さあさあ、私の大好きなドロシー。目の前の男を殺してくれませんこと? あなたの魔法で生きたまま丸焼きにした姿が見たいですわ」

「……いい加減にしてください」

「え?」



 間の抜けた声をあげたのは俺だったか、それともイリスだったか、催眠状態のはずのドロシーは振り向くざまにイリスの頭を持っている杖で全力で叩いた。



「そうやって!! グレイブお義兄様は都合のよいときだけ、私に頼むだけ頼んで!! ベロニカやナナシとちょっとエッチなことをしているのにきづいていないとおもっているんですか!!」

「え……ちょっと待ってくださいまし……なんのことですの? この子無茶苦茶ストレスためてますわーーー!!



 悲鳴をあげるイリスに追撃とばかりに延々と杖をたたきつけるのだった。そういえばドロシーってヤンデレキャラだったんだよな……



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