第9話 ドロシーという少女

まずは冷静になって状況を整理しよう。ドロシーの変化は今朝までさかのぼる。



「お義兄さま一緒にお食事をしましょう」

「ああ、別に構わないが……」



 これまでは一人で食事をしていたというのにどういう風の吹き回しだろうか、ミスリルタートルを倒した翌日のお昼にドロシーにそんなことを言われ一緒に食堂へと向かう。

 治療薬を飲んだおかげかせき込むこともだいぶなくなり、元気になったから機嫌がよさそうだ。



「グレイブ様とドロシー様……?」


 

 満面の笑みを浮かべて、俺と歩いているドロシーを見てすれ違う使用人たちが驚きの表情をしているのは無理もないだろう。昨日までは俺たちの関係は最悪だったからな。ドロシーもナルヴィくらいにしか心を開いてなかったし……

 それにしてもマジでうちってメイドは巨乳しかいないな……ちらっと視線をおくるとメイド服の下には豊かな胸元が盛り上がっていて……



「……お兄さま、お腹がすきました。早く行きましょう」

「おい、ちょっと……」



 俺がメイドのおっぱいに見惚れていると、隣を歩くドロシーが手を引っ張ってくる。その表情はよく見えないがよっぽどお腹がすいたのだろうか?

 そして、食堂についたので俺は定位置に座る。基本的には父は領主の部屋で食事をとるため、いつもは一人で食べていたので、誰かと一緒というのはまあ、悪くない。

 可能なら爆乳な女の子の方が望ましいが……



「失礼しますね、お兄さま」

「え?」



 ドロシーの言葉と共に俺の膝に柔らかい感触とともにふわりと甘い匂い香る。そう、ドロシーが俺の膝の上に座ってきたのである。



「なあ、ドロシー……」

「こうして、誰かと食事をするのは久しぶりでなんだが嬉しいです。これもお義兄様とナルヴィのおかげですね」

「あ、ああ……」



 当たり前のように会話を続けるドロシー。あれ、もしかしてこれって普通なの? 兄妹がこんな風にべったりなのって……俺とドロシーの関係が誤解されないか?

 そんな風に思っているとノックの音が響く。二人分の食事を配膳台にのせてやってきたのはナルヴィだ。彼女は俺たちを見ると嬉しそうに微笑んだ。



「お食事をお持ちいたしました……うふふ、お二人ともとっても仲良しですね」

「はい……その、お兄さまは私の力を祝福だと……必要だとおっしゃってくれましたからね」



 嬉しそうなナルヴィとどこか熱がこもった様に言葉を口にする二人。当たり前に会話を続けてるんだけど……まあ、エロゲの世界だし、父は爆乳ハーレム作ってるし、倫理観が多少は前世とは違うのも無理はないかもしれない。

 それよりもだ……



「ああ、ドロシーの病気が治って本当によかったよ。ナルヴィもこれで一安心だな」

「ええ、グレイブ様のおかげです。お礼というわけではありませんが、今日のお茶は精一杯淹れさせていただきますね」



 俺は病が治ったという事を強調して口にする。これは彼女にありがとセックスを忘れるなよという遠回しのアピールである。

 頬を赤らめて、感謝の言葉を口にするナルヴィを見てにやりと笑う。これはゲームでもあったありがとセックスフラグである。この日の夜に『こちらが本当のお礼です』といって、部屋にやってくるのだ。ベッドを綺麗にしておくことを決めた。



「……ナルヴィとお兄さまは仲良しですね」

「うふふ、グレイブ様はお優しい方ですからね、ドロシー様も今回のことで知ってくださったでしょう?」

「はい、私もお兄様ともっと仲良くなりたいです!!」



 うおおおお、二人の好感度がちゃんと上がっているぅぅぅぅ!!! 死ぬ気でチンコ頭と戦った甲斐があったというものである。

 女の子二人(しかも、片方は爆乳)が俺のことをほめるという前世ではなかった経験に心の中で涙していたの俺は気づかなかったのだ。ドロシーがぼそりと「私も頑張らなきゃですね……」とつぶやいていたのを……




 夜になって俺はベッドに入っていた。だが、眠気は一切ない。むしろ興奮して目はギンギンだった。だって、俺は今夜ついに爆乳とイチャイチャできるのだ。

 加護の関係上セックスはできないが、爆乳のナルヴィとあんなことやこんなことを楽しめるのである。



 おらワクワクしてきたぞ!! 

  


 俺の下半身君も興奮気味にアピールしている。そして、コンコンとノックの音が響く。


 うおおおおおおおお、きたぁぁぁぁぁぁぁ!! おっぱいおっぱい!! という内なる叫びを押し殺しながら俺は平静を保ちながら返事する。



「入っていいぞ」

「失礼します」



 少し緊張した様子の女性の声。扉越しから聞こえるためか少しくぐもっており、だれだかわからなかった。

 そして扉をあけて入ってきた少女のシルエットに俺は眉をひそめる。レースをあしらったネグリジェから出る美し生足にちらりと見える素肌、ここまではいい。 

 だが、胸元は虚無だった。あれ、おっぱいは? むっぱいじゃん。この屋敷でこの体系の女性に俺は一人だけ覚えがあった。



「ドロシーなのか?」

「はい……その……寂しくなってしまったので、お兄さまと寝たいと思ったのですがご迷惑だったでしょうか?」



 近くにやってきたためその顔があらわになる。可愛らしいネグリジェを身にまとったドロシーが、ぬいぐるみを抱きかかえながら、顔を真っ赤にしているのが見えた。

 あれ? もしかしてドロシーと仲良しセックスフラグが立っていた?



「いや、それはないだろ……」



 ドロシーは義理とはいえ妹である。それにまだ13歳だ。そういうことをするにはまだ早いのでマジで甘えにきただけなのだろう。彼女のルートはやっていないからわからないからヤンデレということは知っている。

 それはもしかしたら、引き取られたアンダーテイカー家がひどい境遇であったからなのかもしれない。基本的に放置気味だったからな……ちゃんとした愛情をもらえなかったからこそ彼女はヤンデレになったのかもしれない。だったら、まだ彼女を戻すことだってできるはずだ。

 それに、家族に冷たくされるのはつらいよな……少し前世を思い出してしまった俺は一瞬顔をしかめる。



「お兄さま……やはり迷惑でしたか?」

「そんなわけないだろ? 一緒に寝るか?」



 こちらの表情に誤解してしまったのか、不安そうに瞳を揺らすドロシーに笑いかけてベッドに来いとぽんぽんと叩くと彼女は満面の笑みをうかべてこちらにやってきて、ぎゅーと抱きしめてくる。



「お兄さま……ありがとうございます」

「ドロシーは甘えん坊だなぁ……」



 香水だろうか甘い匂いとともに俺の胸元に顔をうずめてくるドロシーの頭をなでながら、俺は彼女の話を聞きながら眠りにつくことにする。

 これではセルヴィが来てもありがとイチャイチャできないのは残念だが、甘えてくる義妹に冷たくするほどクズではない。

 そして、やたらとない胸を押し付けてくるドロシーの話を聞きながら眠りにつくのだった。



★★



「お義兄さま……寝てしまいましたか?」



 ドロシーのすぐ横ですーすーと寝息を立てているグレイブの横顔の見つめながら幸せそうに微笑む。彼に触れているだけで胸がドキドキして顔が熱くなっている。



「お義兄さま……いえ、あなたが異世界から来た私の救世主様なんでしょう。だって、本来のグレイブという男は私に嘘でも優しい言葉をかけるはずなんてないんですから……」



 この家に来た時にグレイブに言われた言葉を思い出す。



『アンダーテイカー家の当主の座を奪おうとする泥棒猫が!!』



 加護に目覚めている自分に対して、年上なのに一向に目覚めないためか強い劣等感を抱いていたであろう彼の言葉を今でも覚えている。

 そんな彼がいきなり自分に挨拶をするのが最初信じられなかった。ましてや優しく接するなんて夢かとお思ったくらいだ。だが、それも人が変わったというのならば理解できる。



「おそらく、野犬に襲われて目を覚ました時から中身が変わったのでしょう? ナルヴィが優しくなったと嬉しそうに話していましたし、私が別人では? と言った時も目が泳いでましたし……」



 養子として弱い立場でありながら、迫害されないためにと、磨かれたドロシーの観察力は常人のそれよりも高い。彼女はすでにグレイブの人格が別人になっていることを確信していた。 

 そして、そのあとのことはもう、語る必要はないだろう。彼は自分のために治療薬を取りに行ってくれて……甘えようとしている自分も受け入れてくれた。

 それで気づいたのだ。彼が自分の救世主であると……そして、優しくされてドロシーは自分が彼に恋をしていることに気づいたのだ。

 


「その……もうちょっとエッチなことをしてくれてもいいんですよ……」



 当たり前ではあるが自分のスキンシップは常軌を逸していると理解している。だけど、好きだという気持ちがあふれてしまうのだ。

 そもそも兄妹とはいえ義理の兄の部屋にこんな時間に行くのは常識はずれなことである。ドロシーはいろいろと覚悟してちょっと背伸びしたセクシーな寝間着を着て、お香をたいて彼の部屋にいったのだから……



「それとも……やはりもっと胸が大きい方が好みなのでしょうか?」



 彼は隠しているようだが、ナルヴィや、他のメイドの胸元をちらちらとみているのにはドロシーだけは気付いていた。そのことを思い出しスーーーとドロシーの瞳からハイライトが消えていく。



「いえ……きっとこれから成長しますよね……」



 体調がよくなってから自分もナルヴィと同じものを食べるものようにしているし、きっと大きくなるだろう。そう言い聞かせていると彼が「うーん、おっぱい……」と寝言をとともに寝返りをうって自分を覆いかぶさるように抱きしめてくる。



「んん-ーーー」



 いきなりの奇襲にドロシーは思わず嬉しい悲鳴を上げてしまう。彼のぬくもりと匂いに包まれて、それだけで自分の中で幸せな気持ちがあふれてくるのだった。

 


「私に加護を下さった女神さまの言う通りですね……いつの日か異世界から来た方が、私を救ってくれると……そして、世界を救うために、私の力を必要とすると……」



 ドロシーが加護を得たときに、彼女は『女神ヘラ』から予言のようなものをもらっていたのだ。



『いつの日かあなたを救う人間があらわれるでしょう。そして、そのものは世界を救うために異世界から召喚されしこの世界を救う救世主なのです。そして、あなたはその魔力を彼は必要とするでしょう』


 その言葉は両親を失い失意のどん底にいた彼女に生きる希望を与えていたのだ。

 そして、魔力目当てとはいえこの家の養子になったのも運命だったのだろう。それらの経緯があって、ドロシーは思ったのだ。

 異世界というところから、グレイブの人格を乗っ取り、救世主がやってきたのだと。



「あなたが救世主様なのですよね……だって、だれも知らなかった私の病の原因も知っていましたし、こうして助けてくれました。だから、私もお義兄様の夢をかなえれるよう頑張りますね」



 グレイブのぬくもりを感じながらドロシーは人生の目標を決める。もちろん、女神の言っていた救世主とは彼のことではなく、ゲームの主人公のことなのだが、そんなことは知る由もない。

 そして、この決断が世界はもちろん、グレイブの運命をどう変えるかはまだ誰にもわからない。




 グレイブとドロシーが眠ってから少したって、扉の隙間から様子をのぞく人影が一人。



「私のわがままを聞いてくれたお礼を……と思いましたがお邪魔なようですね。お二人とも幸せそうで何よりです」


 グレイブとドロシーが仲良く抱き合って眠っているのを確認したナルヴィは扉を閉めてほほ笑む。

 その姿はいつものメイド服ではなく、ちょっと露出の高いネグリジェだった。


 少なくとも彼がドロシーと一緒に寝たせいでナルヴィとありがとイチャイチャできなかったのだけは事実である。





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そりゃあいきなり性格がかわったら怪しむもいるよね……


これで一章は終わり次から爆乳騎士編になります。よろしくお願いいたします。



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それではまた明日の更新で



また、こちらも読んでくださるとうれしいです。


『彼女たちがヤンデレであるということを、俺だけが知らない~「ヤンデレっていいよね」って言ったら命を救った美少女転校生と、幼馴染のような義妹によるヤンデレ包囲網がはじまった』

ヤンデレ少女たちとのラブコメとなっています。


https://kakuyomu.jp/works/16817330667726316722

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