第7話 覚醒

 失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。



 目の前の強敵を相手に俺の心を占めるのは圧倒的なまでの後悔だった。転生してから少しうまくいってたからって俺はなんで調子に乗ってしまったのだろう。そもそもグレイブは主人公ではないし、俺はただの童貞だ。あのまま余計なことをせずに以前のグレイブのように過ごしていれば主人公に殺されるかもしれないがハーレムを楽しむことはできたのだ。



「グレイブ様……ここは私が時間を稼ぎます。すでに治療薬は完成いたしました。これでドロシー様の病は治るはずです」

「ナルヴィ……?」

「あなた何を言っているのよ!!」

 


 ミスリルタートルと絶望している俺たちの間に割り込むようにして前に進み出たのはナルヴィだった。言葉こそ力強いが、その声と体が震えているのがわかる。

 当たり前だ。彼女は戦士でもなんでもないただのメイドなのだ。本当は震えている彼女にこんなことを言わせてしまった自分を殴りたくなる。



 ああ、くそ……俺はなんて情けないんだよ……こんなんだから前世でも童貞だったんだろ? 



 高校でも大学でもモテなかった? 当たり前だ。だって、俺は何もしなかったのだ。女の子と騒いでいる連中を陽キャと言って、自分とは違うとあきらめて……がんばって女の子と仲良くしようとしている連中を内心馬鹿にして……

 転生してもそうだ。ゲームの知識があるからといって余裕ぶって行動していただけで、何にも変わっていないじゃないか。

 転生してさ、自分の夢をかなえるって決めただろ。そのためには今立ち上がるしかないんだよ!!



「俺は……俺は……ぐえぇぇ」

「きゃぁ」

「ナルヴィ!! お兄さま!!



 気合を入れて叫ぼうとした瞬間だった。ミスリルタートルが尻尾を振り回し、俺とナルヴィを吹き飛ばす。咄嗟に彼女を抱きかかえてかばうことはできた。激痛こそあるもののちゃんと防具をしていたためか、致命傷は避けれたようだ。



「うう……グレイブ様ご無事ですか……」



 すぐちかくで、ナルヴィのうめき声がきこえ、そして、俺は自分の顔をやわらかいものが覆っていることに気づく。心なしか不思議と甘い匂いもするような気がして……



 これはまさかおっぱい……? なんだこれ、むっちゃふわふわじゃん。やわらか!! リア充どもはこれを味わっていたのか……そして、俺はこれをもっとちゃんと味わう前に死んでいいのか?

 


「いいはずねえだろ……俺は、俺は夢をかなえるためにここにいるんだよ!!」


 

 人から見たら愚かなことかもしれない。だけど、俺は爆乳な女の子とイチャイチャして童貞を卒業したいと本心から思っていたんだ。そのために頑張らなかった自分を悔いていたんだ。

 そして、童貞を捨てて爆乳ハーレムを作るためにグレイブとして生きることを決めたのだ。このまま童貞のまま死んでたまるか!!



 何よりもそんなくだらないことを考えている俺を信じて身を守ろうとしてくれるナルヴィがいる。俺たちを心配そうして泣きそうな顔で見つめているドロシーがいる。



「俺が捨てたいのは童貞だ。俺を信じてくれている女の子たちの命じゃないんだよ」



 俺の心を強い感情が……かつてないほどの生への渇望が、彼女たちを守りたいという気持ちが支配する。そして、まるでおとぎ話のような出来事が起きる。



『モテないお前からかつてないほどの性への渇望を感じた。我が名はへファイトス。炎と鍛冶を支配するものである。貴様の死を前にしてもなおとモテたいという欲求と乳への探求心に共感し力を貸そう。その気持ちむっちゃわかる。我もモテなかったもん……女の子の目の前ではかっこつけたいよね』



 天から声が聞こえるとともに傷がいえて、疲労感が消えて体が軽くなる。なんかむちゃくちゃしょうもないこと言ってない? 



「だけど、これは……」



 全身にみなぎる力に思わず笑みをこぼれる。なにはともあれ俺はようやく加護に目覚めたのだ。



「グレイブ様……?」

「二人とも大丈夫ですか?」

「あはは、心配するな。お前らは俺が守る!!」



 心配しているナルヴィと急いで駆け出してきたドロシーにかっこつけてほほ笑んだ。そう、まるでゲームの主人公のように……

 へファイトスは主人公も目覚めなかった神の加護だ。どんな力をもっているやら……彼の力に覚醒したことによって得たスキルを確認する。


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スキル


鍛冶師の目:鉱物の弱点及び特性を見抜くことができる

耐炎:炎への耐性

鉱物の支配者LV1:触れたことのある鉱物で、自分の想像できるものを作成することができる。

女難:相手が女性だと緊張しちゃって全力が出せずステータスダウン。

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 だいぶ偏ったスキル編成である。そういえばへファイトスは神様なのにモテないんだよな……あれ、もしかして俺に親近感をもってたから加護を与えたんか? 

 いろいろとつっこみたいが、今の俺にはこの力はちょうどいい。



「ナルヴィ、ドロシーの治療を頼む」

「わかりました!! すぐに治療薬の作成いたします!!」

「お義兄様……まさか、時間を稼ぐおつもりですか!!」

「ああ、そうだ。まあ、時間を稼ぐのは構わんが倒してしまっても構わんのだろう?」



 俺は某弓兵みたいなことを言いながら敵に斬りかかる。図体はでかい分動きが遅いので、翻弄すれば何とか対応はできる。

 そして……へファイトストスの加護によってミスリルタートルの表面にある金属の構成がみえて、次の動きや弱い部分もわかる。

 てか冷静にみるとこいつの頭ってチンコに似ているな……亀頭とはよくいったものである。



「ははは、なんで俺はこんなのにビビっていたんだ?」



 そう思うと急に気が楽になってきた気がする。弱いところを的確に狙って、徐々に傷をつけていく。男としてチン〇頭なんぞに負けてられるか!!



「クィィィィーーー!」

「うおおおおお、俺の夢を邪魔するなぁぁぁぁ!!」



 何度も攻撃を受けて激怒したミスリルタートルの尻尾を剣で受け止め火花がとびりながらもかろうじで受け流す。へファイトスの加護のおかげか相手の全身にも確実に細かい傷ができているのがわかる。



 だけど、決定打が足りない……



 主人公のような一撃必殺をもたない俺では大ダメージをあたえることができないのだ。だけど、それならばできることはある。



「グレイブ様、ドロシー様の治療が終わりました!!」



 時間を稼いだ甲斐があるというものだ。俺では決定力はない。だけど、主人公パーティーの一人であるドロシーならば話は別だ。

 俺はさっとミスリルタートルに背を向けて逃げ出すと、そのまま大声で叫ぶ。背中を見せるのは男の恥? は、死んだら爆乳ハーレムは手に入らないんだよ!!



「ドロシー!!! 魔法を頼む!! 大規模な氷魔法を頼む!!」

「わかりました!! 氷の渦よ、わが敵を凍てつかせたまえ!!」



 圧倒的なまでの氷の渦がミスリルタートルを包んでいく。そして、やつの体全体が凍てついて動きが止まった……のは一瞬だった。強力な魔法でもだが、中盤の強敵であるこいつには決定打をあたえるほどの威力はない。だが、心なしか、すこし頭がちいさくなったきがする。



「ああ、わかるよ。冷たくなるとあそこはちいさくなるものんな」



 俺はすでに勝利を確信していた。ドロシーはすでに加護に覚醒しているのだろう。病が治った今、ゲームでも圧倒的な力を持っていた彼女はその実力を発揮できるはずだ。

 現にこれだけの規模の魔法を使ったというのに息一つはいていない。



「クィィィィ――!!」



ミスリルタートルが全身を揺らして体を覆う氷を壊そうとする。強力な魔法を受けても決定打にならないのはそれだけこの魔物がすごいのだ。ミスリルで覆われた体は魔力への耐性を持つ。だけど、魔法が通じなくても倒す方法はすでに加護が教えてくれている。



「そらぁぁぁぁぁ!!!」



 カキィンという固い音と共にミスリルの合間を縫ってやつの足を俺の剣が貫いて地面につなぎとめる。緑色の返り血が顔にかかるが気にしている余裕はない。



「ドロシー!! 次は火炎魔法だ!! 手加減は不要だ。全力で俺ごとぶちかませいてくれ」



 ドロシーの加護によるスキルは確か過剰魔法(オーバーマジック)倍のMPを使う代わりに威力に変換できるものだ。それさえ使えばと倒せる。そう、思ったのだが……



「グレイブ様!! このままではあなたも……」

「俺は大丈夫だ!! さっき加護に目覚めたんだ。火は通じない!!」

「だめです……お義兄様……私はまた人を傷つけてしまう……」



 安心させるように微笑んだ俺に視界に入ったのは顔を真っ青にしているドロシーだった。ああ、そうだ。病気は治ってもトラウマは治っていないのか…… 

 そういえばサイトに書いてあったな。ドロシーは人に魔法を向けるのを恐れると……そして、とあるトラウマによって人に魔法をうてないし、全力で放てないのだ。あいにく俺は彼女のトラウマを知らない。貧乳だからと攻略ルートをクリアしなかったのが悔やまれる。



「ドロシー、俺は大丈夫だ。だから加護を使って魔法をうて!!」

「ですが……私の力は……加護は呪いなんです……」



 くっそ、こんな時は主人公ならばどうするんだ? ドロシーが迷っている間にもミスリルタートルは暴れて俺の剣をふきとばそうとしてくるく。やばいやばいって、そろそろ止められなくなってきたんだけど。


 ぼろぼろになっていく剣としびれていく手を感じ冷や汗をかく。たしか攻略wikiをざっと見たときは、主人公がお前の魔法は受け止めるから全力で撃てって激励するんだよな。

 俺にはこの時の主人公ほどの絆はないがゲーム知識がある。断片的だがドロシーに関することを思い出す。


 彼女への決め台詞は確か……



「お前のその加護は……力はなんのためにためにあると思っているんだ。誰かを守るためだろ?」

「そんな……私の力は呪いです……私が本気をだせばお兄様が……」

「俺は大丈夫だ!! だから信じて魔法を放て!!」



 俺の言葉だけでは彼女の迷いを消すことはできないのか……当たり前だ。俺は転生してからドロシーにむきあってきたことがあるのか? その結果がこれなのだろう。

 絶望しているとナルヴィが、震えているドロシーの手を握る。



「ドロシー様、大丈夫ですよ。グレイス様は嘘をつくような方ではありません」

「ナルヴィ……」



 一瞬ドロシーの瞳が揺れる。今がチャンスだ。一気にたたみかけよう。



「ドロシー、お前の神の加護は呪いなんかじゃない。祝福なんだよ」

「な……祝福ですか……? あなたもそう言ってくれるんですね……」



 何やらはっとした顔のドロシーに軽口を叩く。 

 


「大丈夫だ。それに俺は美少女に魔法を放たれるのが大好きなドMなんだよ。だから、遠慮せずに打て」

「なんですか、それ……でも、本気にしますからね!! 女神の加護よ!!」



 力強く頷くと、彼女の周りに圧倒的なまでの魔力が凝縮していく。これまで遠慮していたとでもいうように圧倒的なまでの魔力が解き放たれて俺ごとミスリルタートルを焼き払う。



「うおおおおおおおお!!!???」

「クィィィィ――!????」



 その圧倒的なまでの火力に思わず悲鳴を上げると、ドロシーが泣きそうな顔をしてこっちを見ているのに気づいたので、無事だとアピールするように手を振ってやる。

 てか、へファイトスの加護まじですげえな……かけらも熱くないんだけど。そして、ミスリルタートルに剣をふるうと、刀身が砕け散ったがこちらもその装甲が叩き割ることができた。



 金属疲労というやつだ。絶対零度の氷と圧倒的な火力によってやつを覆うミスリルがもろくなったのである。それは俺の剣も同じなのだが……俺にへファイトスの加護がある!!



「ミスリルの剣よ!!」



 俺は先ほど目の前で観察したミスリルタートルを参考にミスリルの剣を産みだした。アーチャーみたいでちょっとかっこいい。俺もアンリミテッドブレイドワークスでもできないかなと思うがめまいがしてくらっときた。

 今はまだ魔力の低い俺では多用はできないようだ。だが、今はそれで十分だ。



「あばよ、チ〇コ亀。俺の爆乳ハーレムの礎となるがいい」



 新たに作り出したミスリルの剣を構えて、鍛冶師の目で見極めたミスリルタートルの頭のもろくなった装甲を貫き、急所まで貫く。

 やつはしばらくビクンビクンと暴れていたが、やがて、その動きをとめた。きのせいか、俺の下半身もむっちゃ痛くなった……



「やったぞ……」



 達成感のあまり思わず死亡フラグのようなセリフをはいてしまったが無理はないだろう。本来は勝てるはずのない相手を仲間の力を借りつつも倒したのだ。

 そして、待っているのはナルヴィからのありがとセックスである。ようやく俺は童貞を……

 


「グレイブ様!!」

「お兄様!!」



 体がぐらりと揺れてそのまま俺は意識が遠のいていく。ああ、せっかくならばナルヴィの爆乳で受け止めてほしいなと思うが、現実は悲しくそのまま地面に倒れてしまった。ふつうにいてえ……



『条件を満たしたから、新たなスキルをやろう、感謝しろよ。ああ、女の子に囲まれてうらやましいなぁ……』



 脳裏にそんな声が響く中俺は完全に意識を失ったのだった。



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ようやく加護に目覚めたぜ。というわけで主人公の覚醒回でした。


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それではまた明日の更新で



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