循環するもの
「……驚いた」
三日ほど経った日の朝、いつもようにゆっくりと起きてから外に出ると、広がっていた光景を見てスヴェンは目を丸くした。
ティアーナが土いじりをしていた場所から、もう芽が出ていたのだ。幾ら何でも早すぎる。
「大地が力を貸してくれているの。生命を貰ったお礼と言ったところね」
「……君は本当に凄いんだな」
「凄いのは本当にわたしかしらね?」
「大地の生命力にも驚かされたけど、それを引き出すのは君にしかできないことだからね」
「そう言う意味ではないのだけれど」
何が不満だったのか、ティアーナは唇を尖らせて野良仕事に移る。
井戸から汲み上げた水を撒く。畑の広さは決して大きくはないとはいえ、それでも重い水桶を持って往復しなければならないためなかなかに重労働であるが、ティアーナに全く大変な様子はない。
「今更聞くのも愚問なのだろうけど」
「なぁに?」
両手で桶を抱えたティアーナがこちらに顔を向ける。そのまま地面に広がるように水を撒く姿を見て、後で如雨露を買ってあげようと密かに決意した。
「君は畑仕事が好きなのかい?」
「嫌いではないわね。別に畑に限った話ではないけど、大地と触れ合っているとわたしも力を貰えるの」
「それって、別にその辺りに寝転がっていてもいいんじゃないかい?」
「……かも知れないわ。でもそれでは一方的に貰うばかりになってしまう。受け取り、そして返していくのが生命の循環の掟なのよ」
「そんなものか」
言われてみればもっともでもある。自然の中で動植物達は互いに共生しているのだ。人間ですらも完全にその輪から脱することはできない。
「ねぇ」
呼ばれて気が付いた時には、ティアーナは両手で包むようにスヴェンの手を取っていた。
「暇なのでしょう? 手伝ってほしいことがあるわ。もう少し畑を拡張したいの」
「……君は僕の家の周りをどうしたいのかな?」
呆れつつも、甘えるようなその仕草には逆らえない。
明日の筋肉痛を覚悟しつつ、たまには運動しなければと自分に言い聞かせることにした。
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