30. 電話で解決

 ふぅ……。


 シアンは深いため息をつく。AI政府ドミニオンを倒したはいいが、本当に面倒くさいのはこれからなのだ。新しい社会の姿も何も決まらない今、どこから手を付けたらよい物だろうか?


「あのぅ……」


 レヴィアは渋い表情をするシアンに、おずおずと声をかける。


「何? 倒しちゃまずかった?」


「いや、そうではなくてですね、アレ、いいんですか?」


 レヴィアの指さす先には青白く光るラインがゆったりと旋回していたのだ。その先には富士山が見える。


「えっ!? なんでそっちに行っちゃってるの?」


 シアンは目を丸くして驚いた。クォンタムタワーを倒した虚空断章ヴォイド・クリーブは、東京の廃墟ビルを無数切り裂いた後、少しずつ上昇しながら方向を変え、空を舞い続けていたのだ。


「マズい、マズい! レヴィア止めて!」


「へっ!? 我が止められるわけないじゃないですか! そもそもあれは何なんですか?」


「くぅ……、役に立たないなぁ……」


 頭を抱えるシアンにレヴィアは心底ムカついたが、口は禍の元だとグッと言葉を飲み込む。


「えーと、あいつを止めるには……どっかにコマンドが……くあぁぁぁ!」


 シアンは慌てて3Dホログラム画面をパシパシと叩いて操作していくが、その間にも虚空断章ヴォイド・クリーブは富士山に迫っていた。


「そろそろ当たります……」


 レヴィアはため息をつきながら淡々と言った。


「くあぁぁぁ! ダメぇぇ!」


 シアンの叫び声の響く中、青白いラインは青空にくっきりとそびえる富士山の中腹に静かにめり込んでいった。


「着弾……」「あちゃー……」


 シアンは額に手をついて渋い顔でうつむいた。


「あれ、世界遺産……ですよ?」


 レヴィアはボソッとつぶやく。


「くぅ……、バグっちゃってたよぉ……」


 一刀両断された富士山はズリズリとずれ落ち始める。切り口からは赤く輝く灼熱のマグマが吹きだすのも見えた。


「ヤバい、ヤバい! レヴィア、あの噴火止めて」


「いやいやいや、噴火を止められるドラゴンなんていないですって!」


「くぅ、役に立たないなぁ……」


 シアンはブンブンと首を振ると、ガックリとうなだれた。


 レヴィアはさすがに堪忍袋の緒が切れる。


「いや、ちょっと待ってくだ……」


 と、その時、富士山の切れ目が大爆発を起こし、巨大な噴煙が立ち上った。


「あぁぁぁぁ!」


 シアンは絶叫し、頭を抱える。


 日本人の心というべき富士山がぶった切られて大爆発を起こしている。それは、あってはならないことだった。


「あーー! あの山気に入ってたのにぃ……」


 ショックでしおれているシアンに、レヴィアは言いかけた言葉を飲み込んだ。そして、大きく息をつくと声をかける。


「我は役立たないですが、何とかできる方もいらっしゃるのでは?」


 シアンはガサツで雑だが、悪意はない。ある意味純粋なのだ。


「なるほど……。うーんと……」


 シアンは小首をかしげ、しばし考えると3Dホログラム画面を操作してどこかへ電話をかけた。


「やぁ、僕だよ。お久しぶりぃ……。あいや、それはもういいんだよ。元気そうで何より。それでね、富士山知ってる? 富士山……。そう、それそれ。でね、今その富士山が絶賛噴火中でさぁ……。いや、僕は何にもやってないって。ほーんとだって。そうそう、勝手に噴火してんの……。活火山って怖いよねぇ……」


 レヴィアはノリノリのシアンの説明に聞き耳を立てながら、渋い顔で首をかしげた。


「うん、悪いね。頼んだよ。うんうん、またね~♪」


 電話を切ると、シアンはふぅと、大きく息をついた。


「で、何とかなりそうですか?」


「うん、もう、バッチリ。日ごろの行いがいいからね、僕は。うししし……」


 レヴィアはシアンの説明に小首をかしげる。


 富士山はずり落ちた上半分が崩壊し始め、噴煙がさらに激しく上がっていた。



.........................................................................................................................



 すっぱりと切り落としたクォンタムタワーの基底部に、レヴィアはゆっくりと着地した。そこには変電装置やモーターなどの装置が整然と並んでいて、工場のようになっている。クォンタムタワーの動力関係のフロアだったようだ。


「ここに……、何があるんですか?」


 レヴィアは頭を下げ、シアンを下ろしながら聞いた。


「ふふーん、AI政府ドミニオンだって馬鹿じゃない。非常時対応できるシステムをこの辺に隠してるはずなんだよねぇ……」


 シアンは3Dホログラム画面を操作しながら、広大な動力室の中を映し、情報を表示させていく……。


「はぁ……、それにしてもバカでかい設備ですな。この規模のものを作り上げるとはよほど優秀なのでは?」


「何言ってんだよ。こんなの世界のことを何もわかってない出来損ないのやることさ」


 シアンは吐き捨てるように言った。


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