第32話 魔法の指導

 この世界の魔法は、ある程度体系的に扱われている。

 だが原理的なものではなく、作用的なものである。

 それでも例えばディクスンの使った束縛などは、土系の攻撃魔法に分類されていたりする。

 あれをさらに強くすれば、地面から出た腕によって、握りつぶすということが出来るからだ。

「分類は分かりやすいからね」

 ミスティアは言うが、ただ分かりやすくしているだけで、本質を捉えてはいない。

 そのため人によって得意な魔法などが、偏ってきてしまう。


 魔法系スキルの中には、魔道という名前でスキルが存在する。

 この魔道を持っていないと、他の魔法が使えない。

 またこの魔道のスキルレベル以上に、攻撃魔法や付与魔法、補助魔法などといったもののスキルレベルは上がらない。

 世界のシステム的にそうなっているのだ。

 ディクスンからしてみれば、おかしな話だと思えるのだが、もちろん世界の中ではシステムは、大前提として存在する。


 誰が分類したのかは謎であるが、既に分類として存在する。

 魔力を使って行うという点では、実は祈祷法術の奇跡も同じである。

 これは魔力という名前が付いているが、本質的には違うものなのであろう。

 意思の力で世界を変えることを、魔力を使うと言うのかもしれない。

 その魔力を使った作用は、他にもいくつか存在する。


 祈祷法術、精霊術、死霊術、呪術。

 本来の魔法の他に、この四つが違う体系として存在している。

 神の力、大自然の力、魂の力、意思の力と思えばおおよそ正しい。

 完全に正しいわけではないので、ミスティアは文句を言う。

「奇跡は神様のえこひいきだし、精霊術と死霊術は完全に才能によるね。呪術は逆に環境がものをいう」

 魔法と名づけられているものは、才能がかなり重要であるが、他の体系よりはよほど後天的なものらしい。


 極端な話、魔法というのは魔力さえ持っていれば、誰もが使えるものなのだ。

 そして人間の中に、魔力を持たない者はいない。

 この世界では当たり前のように、魔力が存在している。

 ほとんどない人間もいるが、全くない人間は本当に記録に残っていない。

(魔法ってなんなんだろうな)

 ディクスンはその根本的な疑問を、何度も考えたことがある。

 だがそれは研究者の考えることで、自分はどう魔法を使えばいいのか、それを考えるのだ。




 ディクスンが戦闘でよく使う魔法は、攻撃的なものは主に三つである。

 火矢の魔法。これは牽制に使うことも多いが、誘導や待機の魔法を付けて、狙ったところに当てていく魔法だ。

 強力な魔物であっても、顔面にこれを当てられれば、わずかに視界を奪うことが出来る。

 そして致命傷を与えるのは、まず蛇炎の魔法。

 これはディクスンの考えた、オリジナルの魔法と言える。

 人間は火に包まれても、実際は一瞬で致命傷を負うわけではない。

 だが呼吸して肺を焼かれてしまえば、それは致命傷になる。


 相手の機能を奪うことによって、致命傷を与える。

 単純に傷を与えても、魔物はもちろん人間であっても、まだ動くことは出来る。

 致命傷は確かに、命を奪うダメージではある。

 しかしそれが即死というわけではないのだ。

 だが肺を焼いた窒息は、動きすらも奪ってしまう。


 もう一つ、純粋な攻撃力、相手を殺すのが光牙。

 烈光という魔法があるが、よりそれをレーザーのように収束したものである。

 この魔法の強力なところは、とにかくその速度にある。

 光速であるのだから、回避するには予測するしかない。 

 見てからでは間に合わないのだ。

 もっとも魔力の反応を感知して、先に魔法で防壁を張れば、防げないというわけでもない。


 一撃の魔法で、致命傷を与える。

 それは魔法使いとすれば、重要な威力である。

 ただパーティーであったり、また魔法戦士であったりすると、補助として使うことも考えていい。

 火矢や蛇炎は、たとえ致命傷にはならなくても、一時的に相手の動きを止めることは出来る。

 破壊力という点では、光牙が一番強力だ。


 ただそれでもまだ足りない、というのがミスティアの意見である。

「戦線を離脱出来るスピードがあるから、いざという時に逃げるという選択肢があるよね。でもパーティー戦闘だと、それじゃ間に合わなかったりする」

「それはそうなんだけど」

 ディクスンのステータスもスキルも、汎用性が高い。

 ソロで活動できるように、クラスを多数取っているのだ。


 いざという時には逃げる。

 だがこの間のようなパーティーであると、どうしても逃げるのは難しい。

 レベル差があるメンバーとパーティーを組むのは、生存力を低めてしまう。

 もっともディクスンの方が、冒険者としては異質であるのだが。

 ミスティアなども魔法で、ほとんどの部分をカバーできるだろう。

 それでもオルドンという前衛と、組んで活動をしているのだ。




 ディクスンは相当強力な個体の魔物とも、戦闘経験がある。 

 むしろ強い魔物を倒さなければ、レベルというのは上がらないのだ。

 よりステータスが、上がりやすいようにしたディクスン。

 レベル以上の戦闘力があり、また万能の戦士でもある。

 それでもはるかに格上の存在と対した場合、勝つか逃げるかを確実にするための魔法がほしい。


 蛇炎と光牙のうち、特に蛇炎はディクスンのオリジナル要素が高い。

 あとは科学知識から考えると、大気組成を変えてしまうのが、有効なものであろうか。

 一酸化炭素の毒は、確かに強力だ。

 しかしもっと単純な、逆方向のアプローチもある。

 大気中の酸素濃度を、低くしてしまうのだ。

 それは火を燃やすという化学反応で、実際に達成が可能である。


 巨大な魔物であると、しばらく呼吸をしなくても大丈夫であったりする。

 だが人間相手なら、相当に効果的であるかもしれない。

「他には金属の燃焼反応を利用するものとか」

 事前に金属の粉を用意しておくという、準備は必要になる。

 だが単純に魔力をエネルギーに変換するより、アイテムボックスの中に金属粉を用意しておく方が、強力であろう。


 他には粉塵爆発というのもある。

 これも可燃物質を、粉として用意しておくことが必要だ。

 金属の燃焼と、同時に使えばどうなるか。

 前世で言うなら単純に、爆薬と同じ作用が期待出来る。

「純粋な爆発エネルギーは、確かに悪いことじゃないね」

 相手を倒すことを、どうしても考えに入れてしまうが。


 他には逃走用に、足場を崩すというのも考えられる。

 土系の攻撃魔法を、純粋にその足元を破壊することに使うのだ。

 巨大で強力な魔物には、効果的であると思われる。

 あとは接近したならば、接触型の魔法も致命傷を与えられるかもしれない。

 攻撃魔法ではなく、他の魔法に分類されていたりするが。


 ディクスンは時空魔法も使える。

 これによって加速し、相手を翻弄することが可能なのだ。

 またこれは逃走用にも、充分に使うことが出来る。

 空間を断裂するような、強力な時空魔法もある。

 だが魔法という形で発現する限り、それは魔物の持っている魔力に、ある程度は減衰されてしまうのだ。


 魔法ではなく、純粋な化学反応の炎。

 それこそ粉塵爆発などは、きっかけが魔法であっても、エネルギーは魔法によるものではない。

 魔力によって強化しているなら別だが、魔力自体を抑えるだけならば、これによって充分なダメージが入るだろう。

「爆発系は悪くないね」

 そうミスティアは言うのだが、とりあえずディクスンが知りたいのは、彼女の使っていた死砲である。

 死砲自体はディクスンも使えるが、多数を相手に確実に当てる死砲。

 まずは他人の真似から、オリジナル魔法の発明も始めればいいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る