ソロ配信の翌日。


 ソロ配信を姉貴にさせられた翌日。


「はぁ……」


 俺は学校でため息をついていた。

 なぜなら、俺が見ているSNSのトレンド欄。

 そこに俺の名前がまだ載っていたからだ。

 なんでまだ載っているのか分からない。

 昨日ソロ配信でやったことと言えば、質問に答えて、ちょっと話して、姉貴と出かけたことについて話しただけなのに。


「そういえば、なんであんなに姉貴上機嫌だったんだろ……」


 昨日からずっと姉貴が上機嫌だ。

 いつもはデフォルトでむすっとした表情をしているのに、今日は朝から満面の笑みだった。

 しかも俺にやけに優しい。

 いつもならこの時間帯に姉貴からのパシられ命令がやってくるはずが、まだ来ていないのだ。

 気味が悪いことこの上ない。


「おっす、三河ー。今日はお姉さんのパシリしなくて良いのか!」


 すると、肩を叩かれた。

 見上げるとそこにはクラスメイトの友人が立っていた。


「今日はまだ姉貴から命令が来てない」

「お、珍しいな。昼休みはいっつもお姉さんと飯食ってるのに」

「俺もなんでか分からないんだよな。忙しいのかな」

「へー、お、そういえば昨日見つけたんだけどさ」


 そう言って、友人は俺にスマホの画面を見せてくる。


「ひょっ!?」


 画面を見て変な声が漏れた。

 なぜなら、その画面には昨日の俺のソロ配信が映っていたからだ。


「どうしたんだよ、そんな変な声出して」

「え、いやなんでも……」

「いや、マジで面白かったんだよこれ。三河も放課後ライブ好きだったろ? これ見た?」

「うん、まぁ……」


 見てたというか、実際に出てたというか……。


「そういえば見てて思ったんだけど……この声、三河に似てるよな」

「えっ、そうか? 空耳じゃない……?」

「そうか? まあ、声が似てる人なんてたくさんいるもんな。気のせいか」


 なんとか誤魔化せたことに俺は安堵する。

 そして友人が去っていったところで、また話しかけられた。


「ねぇ……」


 話しかけた来たのは愛好だった。


「え、愛好?」

「は? なんで名前で呼んでんの?」


 愛好は俺に名前で呼ばれたことに眉を顰めた。

 あっ、まずい……! アリスになってた時の癖でつい愛好を名前で呼んでしまった……!


「つ、津出列さん、なに?」


 いきなり名前で呼んだ俺を訝しげな目で見つめつつも、愛好は口を寄せてきた。

 一瞬愛好にキスされた時のことがフラッシュバックしたので身構えたが、愛好の話は別の要件だった。


「その……今からちょっと時間ある? 話があるんだけど」

「え、あるけど……」

「そ、ならちょっと着いてきてくれる?」

「いいけど」


 そうして、俺は言われるまま愛好について行った。

 俺たちがやってきたのは、最初に愛好に絡まれた屋上前の踊り場だった。


「で、用事って?」

「その……昨日の配信を見たわ」

「え、あ、そうなんだ……」


 ちょっと照れた。

 なんだか、同業者に自分の配信を見られるのって、照れるのは俺だけだろうか。


「その……面白かった」

「あ、ありがとう……」


 愛好は素直に褒めてくれるが、逆にそれが不気味だった。


「それで見てて思ったんだけど、あんた、私と同じ配信者でしょ?」

「えっ」

「流石に分かるわよ。理奈と入れ替わりで配信をやってたくらいじゃ、あの技量は身につかない。どこかのチャンネルで配信してるんでしょ?」


 愛好は俺が配信者であることを確信している口ぶりだった。

 俺は観念してそれを認める。

 俺が萌園アリスだとはバレていないようだし。


「バレたか……そうだよ。でも、姉貴には言わないでくれよ」

「分かってるわよ。それで……ごめんなさい」


 愛好がいきなり頭を下げてきた。


「私、あんたのことを誤解してたわ。理奈の金魚の糞だと思ってたけど、本当はどこまでも真摯な配信者だった。あのトーク技術はそれくらい真剣にエンターテイナーをやってないと身につかない。なのに、私はあんたを配信を舐めてる素人だと思って、バカにしてた。本当にごめんなさい」

「別にいいよ。気にしてないから」


 俺がそう言うと、愛好は顔を上げた。


「ありがと。……それでね、ちょっと他に聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと?」

「鈴木アリスちゃんっていう名前の女の子、知らない?」

「っ!?」

「いくら探しても見つからなくて……」

「い、いや知らないかな……」

「そっか……残念。付き合ってくれてありがと」

「うん、それじゃあ」


 愛好がそう言った瞬間、俺は急いで愛好から離れた。

 危ない……あのままだと色々とボロが出てたかもしれないからな。



 ただ、俺は愛好から本当の意味で逃げ切ることはできなかった。

 なぜならその後、愛好から『一緒にオフコラボしない?』とメッセージが飛んできたからだ。

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