第66話 素敵なお弁当


「そ、そうなの?」


「傷ついている人に、八岐大蛇やほかの魔物が何度も攻撃しててさ──ぼろぼろになって、重傷を負って、そのときの叫び声が聞こえてくるの。それが聞こえるたびに、体が震えあがってきて……」


「もう言わなくていいよ。辛そうだし」


「ありがとう」


 加奈が強く俺に身を寄せてくる。これ以上は聞かない方がいいな。

 少しずつ、加奈の恐怖を取り除いていこう。そしてお腹の虫が鳴く。

 スマホを取り出して時間を確認すると、すでに11時30分。周りを見てもシートで弁当箱を広げている人がちらほら。


 お昼時か──そう考えていると、加奈が腕を引っ張ってきた。


「お弁当作ってきたんだけど、一緒に食べない?」


「ああ、作ってきてくれたんだっけ」


 昨日の時点で、LIANで加奈が言っていたのだ。「明日は私が2人の弁当をつくる」と。

 そこまで言うんだから、相当力が入っているだろう。加奈は、こういう時はとても一生懸命な性格なのは知っている。


 そして加奈はカバンから大きなお弁当箱を取る出す。ゆっくりと上の蓋を取ると、豪華そうな料理が出てきた。


「みんな手作りなんだ。美味しいかわからないけど、一緒に食べよ」


 人差し指で頬をぽりぽりかいて、目をそらしながら言う。中身は──それは豪勢そのものだった。


 おにぎりが4つ。それから──卵焼きにたこさんウィンナー、ステーキにほうれん草の胡麻和え。野菜炒めにから揚げ。赤飯。とにかく豪華そう。


 これ全部、加奈が作ったってこと?? 視線を加奈に戻す。


「時間かかったんじゃない?」


「う、うん。朝早く作ったんだけど。いろいろ美味しくしようとしてたら時間がかかってギリギリになっちゃった。それで、小走りでここまで来て……」


「すごいね、豪華だね」



 加奈が、指をつんつんさせながらちょっとうれしそうに語る。そんなに力を入れていたなんて。

 というか、全部食べ切れるかな? ちょっと不安だ。あと、加奈の期待に応えられるようにこっちも何かしないと。


「まあ、残っちゃったら持ち帰ってもいいから。無理して食べないでいいよ!」


「わかったよ。でも、せっかく加奈が愛情を込めて作ってくれたんだから、食べられるだけ食べるよ」


「あ、ありがとう」


 そうだ。せっかく加奈が俺のためにと愛情をこめて作ってくれたお弁当。加奈の気持ちにこたえるためにも、しっかりと頂きたい。箸をとって、なににしようかな……。

 まずは、卵焼き。


 一個取って、一口頂く。おおっ、卵は焼き過ぎず半熟。外はふわっとしていて、中はトロッとしている。おまけに甘い味付け。


「澄人君、甘い卵焼きが好きだったでしょ? ちゃんと美味しく作れてる?」


「うん、とっても美味しいよ。昔と同じだね」


「そう言ってくれると、愛情込めて作った甲斐があるなぁ~~」


 同じように卵焼きを食べている加奈。とても嬉しそう。加奈がうれしそうな表情になって、本当に良かった。

 今度は、おにぎり。何が入っているのかな?一口食べてみる。


「これ、生たらこ??」


「う、うん。これも、小さいころ澄人君美味しそうに食べてたから。ダメ?」


「そ、そんなことないよ。子供のころのこと、覚えてくれていてとっても嬉しいよ。半生になっていて、とっても美味しいね」


「ありがとう。そう言ってくれて、本当に作り甲斐があった」


 たらこを焼く時間を減らして、中心部が生になっているんだ。この粒粒と御飯が本当に合う。


 それから、野菜炒めとステーキ。赤飯。


 ステーキは、口に入れるだけで脂がとろける、とっても柔らかい。

 脂がのっていて、高そうなお肉を使っているのがわかる。おまけにたれも甘くてコクがある今まで食べたことがない美味しさで赤飯がとても進む。


「この味付け、加奈が作ったの?」


「う、うん。どうすれば澄人君が美味しく食べてくれるかなって、色々考えて作った。ちょっと甘すぎちゃったかな?」


「え、そんなことないよ。今までにないくらい、どんなお店にも負けないくらいすっごい美味しいよ。びっくりしちゃった。素敵な味だったよ」


「喜んでくれて、ありがとう」


 嬉しそうな表情で、にっこりと笑う。心の底から喜んでいるのがわかる。加奈が喜んでいるのを見ていると、こっちも嬉しい気持ちになってくる。


 量は多かったが、8割がた食べ終わる。加奈が、苦笑いしながらポッコリと出たお腹を押さえる。


「やっぱり多かったね。残して夜食べてね」


「いいよ、何とか食べるよ」


「あーいいっていいって無理しなくて。お腹空いたときに美味しく食べてもらった方が言い方」


「うん、ありがと」


 そして、弁当をしまって俺たちは寝っ転がった。ぽかぽかと暖かい中、ただ青空を見つめる。


 俺の腕に再び抱きついてくるかな。優しく手を握ると、やっぱりまだ怖がっていた。

 もう片方の手で加奈の髪を優しくなでる。


「加奈──トラウマ、克服できるといいね」


「う、うん。私、頑張るよ」


 そう言うと、加奈が握る手に力を入れてくるのがわかる。克服したい意思はあるというのはわかる。


 でも、加奈一人じゃ厳しいかもしれない。何とか、力にならないと。

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