第33話 ザイン
この先から強い気配がする。明らかに強いやつがいるというのがわかる。一度後ろにいる2人に視線を向けた。真剣な表情で、覚悟は決まっているのがわかる。
「わかったのじゃ」
「わかりました」
コクリとうなづいて、この場の空気が引き締まった。
そして、俺たちはダンジョンの終点へ。
薄暗い道の先に、明るい光。あれが出口みたいだ。
自然と早足になって、光差す場所あっという間にたどり着いた。
さっきまでの薄暗い場所とは違って、いくつものランプで照らされた明るい場所。
遺跡のような印象がある。広くて天井も何十メートルもあるのかってくらい高い。周囲に視線を向けて、神秘的な雰囲気を強く感じる。
左右の壁には絵が描いてある。銀髪のすらっとした女の人。白を基調とした、肩を露出している天使のような衣装。女神様かな? 見たこともない象形文字。見たことがないな……ここの部屋の主はわかるのだろうか。その他には動物であったり、人であったりいろいろな壁画の数々。
神秘的な雰囲気を感じる。そして、中央には女の人の大きな石像。そんな場所の一番奥の上座の席に、目的の人物はいた。
おまえだったのか──。
以前死闘を繰り広げた、魔王軍セラフィールの最側近。銀色の短い髪に、まるで10歳くらいの子供のような幼い顔つき。
事情を知らない人からすれば、かわいい子供にしか見えない。
「おうおう澄人にネフィリム。いつの間にか夫婦になったのか」
「あなた──相当強いですね。でも負けるつもりはありませんから」
璃緒が、彼から発している魔力に気づいたのか警戒した目つきで子供を睨む。流石だ。
子供は腕を組んで、黙ってこっちを見ていた。
「そちと戦うとはのう、しかし容赦はせぬぞ。手加減はせん。あと、まだ夫婦ではない、これから親睦を深めて、澄人との子供を作るのじゃ」
勝手に決めるな。
「ふふん、君たちなんだ。楽しくなってきた。でも手加減はしないよ。全力で戦わせてもらう」
「誰なんですか?」
そうだった、璃緒は知らなくて当然だ。
「えーと、こいつはザインっていうんだ。セラフィールの部下で、戦闘だけなら魔王軍でもトップクラスだった」
まるで少年のような小柄な体系。一見すると子供のようだが、発せらる魔力はネフィリムに負けないくらいのものがある。全力で戦って、勝てるかどうか。
「ラスボス前の強敵という感じだ。全力で戦おう」
「強いんですね、わかりました」
「まあ、言葉を交わしても意味ないよね。勝ったら先へ進める。負けたらここまで──さあ行こう」
そして、ザインは左手を上げた。上がった左手から強大な魔力が上がり、俺の身長くらいの大きな魔剣が出現。
「魔剣──アン・フォルム・ダーク──だっけ」
黒や紫のスライムを手でぐちゃぐちゃにかき混ぜたような、禍々しくて見るものに恐怖を感じさせるフォルム。そこから発せられる魔力は、ネフィリムに迫るものがある。
「覚えててくれてありがとうね」
「忘れるわけないだろ、そいつに犠牲になった仲間たちの事を考えたら──」
「おおっ! 仲間想いなんだね。流石は勇者さん」
こいつの攻撃によって犠牲となった仲間がたくさんいる。
何百人、何千人という冒険者たちを葬ってきた剣だ。
「フフフ、君たちを葬れると思うとゾクゾクするよ」
「やれるものならやってみるのじゃ」
構えてくる。戦いが始まるのか。
まあ、どんな敵であれ勝つしかないのだが。璃緒にも、こいつの事を話しておこう。
「璃緒!」
「なんでしょうか?」
「こいつは外見はかわいい子供の格好をしているが騙されるな。善悪の判断がつかなく平気で残虐なことをしている。生きた人間をそのまま食ったり、捕らえた冒険者を見世物にしていたほどだ」
「わかりました」
そう言って、璃緒は真剣な表情でごくりとうなづく。
「そちには、あまりの残虐さに手を焼いたものじゃ。じゃが、力が強いだけではわらわに勝つことは出来ぬぞ」
「それは──愚問だね。幼いころから戦乱の嵐の場所で育ち、戦うことでしか生き残れなかった、弱くて家族も友も失った僕にとっては──強くなることがただ一つの価値観だった。それが、生き残るための唯一つの手段だった」
「私たちとは、正反対の価値観ね」
「そうだよ。だからそれを否定するのは、僕の存在するのを否定すること。だから、全力で戦わせてもらう」
そして、ザインは剣をもって一気に突っ込んできた。
突っ込んできた先は──俺だった。
ほとんど狂犬といってもいい存在。
粗削りといってもいい連続攻撃。続けざまに攻撃を受けた腕が軋むほど。
まるで、猛獣のようなパワー。
隙だらけ、粗だらけの力任せの乱撃。昔から変わってないな──2回ほど叩きつけられるような攻撃を受けてから、少しずつ後ろに足を運び、一気に降りぬかれるザインの攻撃を横一線でかわす。
ゴン!! と大砲をかすめるような衝撃が鼻先を撫でる。大振りで剣を振るったがゆえに、ザインの胴体ががら空きになった。
リスクをかけてギリギリで回避した分、すぐカウンターに移れる。
おまえだって冒険者を何人も犠牲にしてきた。恨むなよ──。無防備な胴体をめがけて剣を薙ぎ払おうとして、そこには何もなかった。
おかしい、俺を攻撃しようとして前のめりになったところを捕らえたはず。そんな事を言ってる場合ではない。ザインはどこ──そう感じた時、ネフィリムの叫び声が聞こえた。
「後ろなのじゃ!!」
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