第27話 幸せな時間
という事で、ご飯とビーフ、ソースを程よくスプーンにのっけて璃緒の前へ。璃緒はご機嫌そうに「いただきます」といってパクっと口にした。仮にも俺が口をつけたものなのに──大丈夫なのかな?
それから、食事を再開。
あっという間に食べ終わってしまった。話は弾まなかったけど、こうして一緒になんだか交際してるみたいだ。カップルみたいな。
それから、デザートのお菓子までついてきた。
サクッとした食感に、ふんわりといちごの香りが漂ってくる。小さいけど、上品な味がする高級品というイメージ。
「そういえば、この後どうする?」
「上野公園を歩きながら、お散歩して色々話すというのはどうですか?」
「ああ、あの公園? いいよ、楽しそう」
散歩か──いろいろ景色を見ながら話せるといいな。
そして、席を立ち会計となる。
璃緒がクレジットカードを出して支払い。本当にご馳走になってしまった。今度、何かで埋め合わせしないとな。
「美味しかったですね、ごちそうさまです」
「いえいえ、気に入っていただいて何よりです」
上野公園を二人で歩く。大都会の中の、物静かな雰囲気の公園。夏休み後という事もあり、土日にもかかわらず人はそこまでいない。時折近所の老人らしき人とすれ違うくらいだ。
蓮が浮いているため池の周りの道を、2人で歩いていく。隣には──璃緒。
ドキドキするな……ずっと黙っているわけにはいかないのはわかってる。気まずいし。
「子供のころ、家族でよくここに来たんです。あっちの湯島星良軒でビーフシチューとかハンバーグあたりを食べて、それからこのため池を散歩したりしていました」
「そ、そ、そうなんですか──」
璃緒は楽しそうにここに来た時の思い出を話す。まずい──こっちが話をして璃緒を楽しませないと。エスコートっていうんだっけ?
「え、え──それで神社にお参りしたり、動物園に行ったり。兄弟でです。今となっては懐かしい思い出です。兄弟たちは──みんな住川グループに入って跡継ぎになるために毎日遅くまで仕事ですから」
「お、お忙しいんですね……」
でも、彼女なんかできたことがない俺にとって何気ない会話というのがとても難しい。
ほとんど会話が続かない──。まあ、友達なんかいなくて学校でも周囲とほとんど話さなかったから当然だよな。いきなり女の子を楽しませるトークなんてできるわけがない。
諦めかけたその時、目の前に手が差し出された。視線を上げると、そこには璃緒の姿。
「手、握りませんか?」
「ああ……いいよ」
恥ずかしそうな璃緒の表情。璃緒の顔が、ほんのりと赤くなってる。こっちも恥ずかしい。
そして、璃緒がぎゅっと手を握ってきた。あれ……握手ってそっち??
指同士を絡めあう、いわゆる「恋人つなぎ」というやつだ。普通の握手に比べて、璃緒の指が当てっている。
なめらかでやわらかい、女の子特有の感触。とても気持ちが良くて、ずっと握っていたいくらいだ。
「じゃあ、今度は私がからすみさんに質問していいですか?」
「い、いいですよ」
「からすみさんは──ネフィリムさんと組む前までは1人だったみたいですとね?」
「ま、まあそうだけど」
「ソロプレイなのは、何か理由でもあるんですか?」
「理由も何も、友達なんていなかったし──だからダンジョンを配信するときも自然と一人だった。いつもボッチだったそれに不自然はなかった」
異世界から帰った時──どこか燃え尽きた感があったな。どうすればいいか考えて、気が付けば一人で潜ってた感じかな。
幼馴染の加奈もいたけど、すでにパーティーを組んでいて入りずらかった。
「そうだったんですか? からすみさんって、正義感が強くて人が良くて、もっと人に好かれるタイプだと思ってたんですよ」
驚いたのか、両手で口を覆って言葉を返してきた。流石に買いかぶりすぎだよ。ずっと友達なんていなかったし。
「そんなことないって、璃緒と違って──好かれるなんてなかったから」
璃緒は──俺と対極ともいえる存在だ。人から好かれて、明るくて、とっても美人。
隣りにいる資格さえ、疑ってしまうほど。
そんな璃緒がこんなに俺のことを評価してくれている。嬉しいんだけど、勘違いされているような気がして恥ずかしい。
璃緒の姿が眩しくて、思わず目をそらしてしまう。俺は──璃緒が思っているような人間じゃないんだ。
そんなことを考えていると、璃緒が俺の前に立った。そして、俺の両手を掴んで顔を近づけてくる。
「みんな、からすみさんの魅力に気づいていないんですよ。私知ってますから、からすみさんがそれだけいい人で──魅力的だっていう事」
強気な表情。そこまで面と言われると、こっちも恥ずかしい。
「あ、ありがとう」
「いっしょに配信して──からすみさんのいいところとか、魅力的なところとかいっぱい伝えますから。安心してください!!」
自信満々の表情。そこまで言われると、答えないわけにはいかない。
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」
それからも、2人で楽しい時間を過ごす。
泣いている子供がいる、迷子かなと思い近づいた。
「大丈夫?」
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