第25話 生まれて初めてのデート




 数日間、時折ネフィリムとダンジョンに潜ったりしていた。

 ネフィリムは一人の時も自分のダンジョンの問題点を改良したり、最下層まで到達した配信者の相手をしていたらしい(なお、俺の指摘により命までは狙わずほどほどに痛めつけるだけになった模様。いない間は最下層に証明書を置いておき後日空いた日になった模様)


 そして、俺の運命の日となった。デートという事で、身なりに気を付ける。

 服装は──よくわからないが白いシャツに茶色のズボン。


 鏡を何度も見返して、くせ毛や目やになんかがないか確認。こういう事は初めてでこれで正しいかわからないけど、精いっぱいのことはする。



 まるでデートみたいで、今でも夢なんじゃないかと思う。だって、相手が俺をデートに誘ってきたんだよ。

 俺をデートに誘ってくれた相手。失礼がないようにしたい。出来るかどうかはわからないけど。



 そして電車を乗り継いで、昼前に上野駅へ。そこから地図を頼りにしてようやく約束の場所にたどり着いた。

 快晴の空の、残暑が残る京成線の入り口の前。


 人が多いけど、璃緒の姿はそれでも一目でわかった。清楚なイメージで、白いワンピースとスカートを着ている。


 スレンダーなすらりとした体系。肩や腕、美しさを感じるような細い脚。白い肌──上品で美人という言葉を体現したような人。

 その美しさに、思わず見入ってしまう。


 いけないいけない──そろそろ時間だ。深呼吸をして心を落ち着けさせてから、璃緒に近づいて話しかけようとした。


「あ、からすみさん──おはようございます」


 目が合った瞬間、璃緒が一歩速く話しかけてきて言葉を詰まらせてしまった。


「あ、えーと。こちらこそおはようございます。待たせちゃいました?」


「あ──そんなことないですよ。今着いたばかりですし、問題ないです」


「あ、それはよかったです。今日はよろしくお願いします」



 そして、俺たちは人通りの多い道を歩き始めた。璃緒が道を誘導するように残暑が残る暑い道を歩きながら璃緒が話始める。


「先日は、私を2度も救っていただいてありがとうございました」


「いえいえこちらこそ。救ってくれたのは璃緒さんもですし、それはお互い様ですよ」


「礼儀正しいんですね」


「いえいえ、当然のことをしたまでですから」


 腰が低い人だな……なんていいうか会話していて安心できる感じ。そういう所が、璃緒の人気の理由なんだなと思う。人通りの多い道から、大きな公園に入る。

 入ってすぐに豪華そうなホテルがあって、そこで璃緒は立ち止った。


「ここです。ウィンターナショナル・コルチネルタ・ホテル」


 聞いたことがないホテルだが、豪華な内装を見るに高級ホテルだなというのがわかる。当然、こんな場所来たことがない。


「この中にレストランがあるんです。そこで色々話しましょう」


「わ、わかりました」


 そういえば、店とか考えてなかった。本来、俺が考えなきゃいけないんだよなこれ。自分の未熟さを感じて恥ずかしい気持ちになる。


 中に入って初めて見る豪華な世界に唖然とする。それから、エレベーターでレストランがある30階へ。

 他のエレベーターの人も、高そうなスーツやドレスを着ていたりいかにもビジネスマンや富裕層の人ばかり。緊張するな……。


 30階につくと、目の前にレストランはあった。


 入り口に入ると、きれいな服装をしたウェイターの人がやってくる。

 礼儀は正しいし、清潔感のある格好。高級ホテルという雰囲気だ。




「住川様でよろしいですね?」


「はい」


「席のご案内をいたします」


 予約席? 一瞬どういう事かと不思議に思うと、璃緒がこっちに振り向いてきた。


「あ、驚かせちゃってごめんね。昨日予約しておいたの」


 そうだったんだ。手際がいいな。慣れてるって感じ。常連なのかな? それから「予約席」の札がある、窓側の席に案内される。


 東京の景色が一望できる窓の席。眺めがよくこういったデートに最適な場所だ。


「眺め良いですよね。私のお気に入りなんです」


「は、はいいいですよねこれ」


 用意された水を飲んでから、メニューを開くとその値段に飛び上がりそうになった。


 コーヒー800円??



時間的にランチの時間なのだが、料理も普通の食事の倍以上はする。ドリンクとビーフシチューやカレー、ハンバーグのセット料金は2500円とか3000円とか。

そういえば用意されているフォークやスプーンも銀色でおしゃれな模様をしていていかにも高級そう。


高級レストランなんだここ。


う~~ん、俺が払わなきゃいけないだろうし──ここまでするとは思ってなかった。

生活がきつくなるかもしれないけど、仕方がないか──。そう考えて財布の中身を確認すると、璃緒が慌てて両手を振ってきた。


「あ。からすみさんは大丈夫です、私が払いますから」


「え? でも──こんな高い店、大丈夫なの?」


「あ、大丈夫ですよ……お金はあるんで」


う~~ん、女の子におごってもらうのは罪悪感あるけど──考えてみれば璃緒くらい稼いでいればこれくらい出せるのだろう。大事な話の日でもあるし、今日はご馳走になろう。それで、今度どこかで埋め合わせしないと。


「何度かホテルのレストランで過ごしたことがあるのですが、その中でも一番美味しいコーヒーとランチを提供しているのがこのお店だったんです。だから、大切なひとを誘うときはこのお店にすると決めていたんですよ」


「そ、そうだったんですか」


その後、頼むメニューが決まりウェイターさんを呼んだ。その後、再び2人っきりとなる。

時折窓から景色を除き、互いに黙りあってしまう。璃緒──お気に入りとか言ってた。こんな店に何度も来てるんだ。お金持ちの家系なのかな?

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