第17話 まるでNPC


「あの森のダンジョンに、薬草があるのじゃ」


 何も話してないのに、茶色い服のおじいさんが向こうを指さしてしゃべってくる。


「薬草を集めると、何かあるんですか?」


「あの森のダンジョンに、薬草があるのじゃ」


 えーと。話し方がおかしかったのかな? どう話そうか考えていると、ネフィリムが不思議そうな表情でおじいさんに話しかける。


「そちは、どこで暮らしておるのじゃ?」


「あの森のダンジョンに、薬草があるのじゃ」


「森の中には、どんな魔物がおるのじゃ?」


「あの森のダンジョンに、薬草があるのじゃ」



 何度聞いても同じ答えしか返ってこない。同じポーズしかとらない。流石のネフィリムもぽかんとなってしまう。薬草がなぜ必要なのかもわからない。どんな形かもわからない。後でわかるのだろうか?

 本当にモブキャラみたいだな。


“ひどいごり押し”

“NPCかな?”

“ほんとにゲームの中にいるみたい”

“あの森に行けというダンジョン製作者の意思だけは伝わった”

“まあ、森に行けってことだろ。でもいきなり薬草なんて言われてもな”

“クソダンジョンあるある。説明不足でどうしてその行動が必要なのかがわからない。んで後でわかると”

“不親切設計てやつ。村人に話しかけるとわかるかもしれんな”


 参考になりそうなコメントを拾う。なるほど、村人に話しかけたり、森のダンジョンに行けということか。他に手がかりはない。

 行くしかないみたいだ。話すだけだと退屈しそうだし数人話しかけてから薬草を取りに行こうか。


「色々話してから、北にある森に一緒に行こう」


「了解なのじゃ」


 それから、他に話しかけてみたのだが返ってくる答えは全く一緒だった。

 モブっぽい若い男の村人話しかけてみたのだが──。


「困ったことがあったら、あの老人に話しかけるといい。村で一番い知識が深く頼りにされている」


「薬草を求めている人がいるというので聞いてみたのですが」


「困ったことがあったら、あの老人に話しかけるといい。村で一番い知識が深く頼りにされている」


「あっちの森に、何かあったりするんですか?」


「困ったことがあったら、あの老人に話しかけるといい。村で一番い知識が深く頼りにされている」


 さらに、ワンピースを着た若い女の人。


「あなたあっちの村外れの家の人でしょ? 妹が病気なんだって聞いたけどあの病気に効く薬草、知ってるかい。これなんだよ」


 そういって、ポケットから一枚の葉っぱを取り出した。モミジのような形をした葉の草。


「そうなんだ、これが森の中にあるってこと?」


「あなた……」


 以下、さっきまでのような回答の繰り返し。


 何回か聞いてみたが、同じ答えしか返ってこなかった。彼らの言葉から察するに、俺は村はずれの家に住んでいる村人という設定で、病気の妹のために森のダンジョンで薬草を探しに行くというストーリーなのだろう。


 この、昔のゲームみたいな仕様はあいつに問いただすとして、家に入ってみよう。

 一度女の人が指さした実家へ足を運ぶ。コンコンとノックをすると、お父さんらしき男の人が出てきた。モブっぽい普通の人。中は簡素な造りの部屋。


 そして、その奥の部屋に入る。

 金髪で、ツインテールの女の子が「お兄ちゃん、苦しいよ」とベッドで横たわりながら苦しそうに言っていた。


 この子に、薬草を届けるストーリーというわけだな。ベッドで寝込んでいる女の子に話しかける。


「大丈夫?」


「うん。お兄ちゃん、ゴホッ──ゴホッ。ありがとう」


 そう言われても、苦しそう。放っておけないという感情が湧いてくる。


「薬草を取ってくればいいんだね?」


「効く薬草があるっていうのは聞いたけど、いいの? ありがとう。お兄ちゃん、お願いね。ゴホッ──ゴホッ──」


「わかった」


 咳き込んでいて、苦しそうな表情の女の子。この子のために頑張ろうと意気込む。


「お兄ちゃん、頑張ってね」


 優しい笑みを浮かべて、こっちを見てくる。さっきまでとはまるで違う。この子はNPCではないのか?


 そして、女の子はベッドからこっちに向かって手を差し出してきた。俺は女の子の手をそっと握る。

 女の子特有の、細くてやわらかいて。握っていて、とても気持ちいいと感じる。


 ついつい感触を味わいたくなってしまう。


 考えていると、ネフィリムが話しかけてきた。



「全くじゃ。英雄色を好むというが、こんな小さい子に手を出そうとは──」


「待ってくれ。社交辞令みたいなもんだろ?」


「でもそち、少しでもこの子の肌に触れるように触っていたではないか。素振りからわかるぞ。幼い女の子が大好きなのか?」


 慌てて言葉を返すが、ニヤリとした表情で挑発するようにこっちを見ている。こいつからかっている……。


 まずい、以前の世界と違ってこの会話をみんなが見てるんだぞ──念のため流れるコメントに目を通したのだが。


“逝ってよし”

“澄人はロリコン”

“マジかよ”

“【悲報】澄人はハーレムと小さい女の子が大好き”


 コメントからもからかうような言葉が出てくる。とりあえず、火消ししないと。


「えーと、誤解だからな」


「ええじゃないか。こういう慕われ方の方が、そちにはあってるぞ」


「冗談でもやめてくれ。SNSで変な噂流されるから。配信者ってイメージ戦略がとても大切なんだ」


「でも、こういう慕われ方の方がそちらしいのじゃ。いじられながら、親しみやすい勇者という感じじゃったぞ?」


「まあそうだけど……」


 ネフィリムの、キョトンとした俺の反応を不思議がっているような表情。こいつ、俺の以前の世界の時を知り尽くしている。




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