第10話 璃緒のこれから


 ピッとマネージャーの人の通話を切る。ベッドに身を投げ、帰ってくるまでの事を思い出す。

 倒れた3人を引きずって、命からがらダンジョンを舞い戻り何とかダンジョンの上層部へ戻ることができた。

 犠牲者が出なかったことの喜びで、他の配信者や冒険者の前で私は泣き崩れてしまったくらいだ。それくらい、3人がボロボロになっているのをみて胸が張り裂けそうになったんだもん。


 その後、直ちに私たちは病院へ。私は軽傷で済んだものの、他の3人は骨折や大けがなどで即入院になってしまった。そして、私は手当てを終え部屋に戻ったのだ。

 病院で、マネージャーと話した内容が頭をよぎる。


「そうですか……怪我の具合がひどくて2.3カ月はダンジョン攻略はできないと」


「その間は──ソロでダンジョンに潜るのかい?」


「恐らくそうなると思うのですが……まだ、ショックのせいでそこまでは考えられないです。少し考えてから、答えを出させていただきます」


 白っぽいキャミソールに、その上からゆったりとしたTシャツを着て、ふかふかのソファーに腰かける。ちなみに下着はつけていない、やっぱりブラジャーを取ると開放感があるのがいい。1人の時はよくやってる。


「これから、どうしよう」



 今の状況に思わず両手で顔を覆う。今の状況だと、私がソロでダンジョンに潜ることになるよね。

 前線で戦う仲間も援護もなしで、今までと同じパフォーマンスが出来るかどうか。再生数を維持できるかどうか。


 でも、3人が入院したまま何もしなかったら私たちはその間ファンの前から姿を消すということになる。

 最初の方は同情もあるかもしれないけど、それもいつまで続くかどうかわからない。ダンジョン界隈はまだできたばかりな分競争が激しく、次々と新参配信者が現れては消えていく状況。去年、配信者四天王とか言われたパーティーのうち2組はすでにランキングから消えかかってしまっているし、そんな中で視聴者の前から消えてしまえば──。


「埋もれる。それはダメ、3人のために──私が頑張らないと」


 ソロだと力不足なら、誰か別のパーティーで戦うか。でも、簡単にパーティーを変えればファンから「浮気」だの「尻軽」だの言われる。何より仲間を乗り換えたって言われるかもしれない。

 それ相応の理由が必要だ。


 ソファーからスンと立ち上がろうとすると、大きな乳房がずしんと自己主張をしてきた。


「たまに、切り取りたいと思うときはある」


 Fカップという同世代と比較して大きい乳房。

 身体を動かすたび、揺れる揺れる。おかげで、戦闘時は視線がすごい。まるでブラックホールのようだ。


 コメントからも、

 :揺れ


 :挟まれたい


 とかそんなんばっかり。スタイルが良くて注目されるのはいいけど、さすがに見ていて恥ずかしくなってしまう。



 まあ、そんなことを言っても仕方がない。それを武器にするには、私はちょっと恥ずかしいけど。


「ちょっと、考えてみよっか」


「3人が回復するまでの間、私がどうすればいいか──」


 トークのこともあれば、誰かと組んで配信をつづけたほうがいい。ただ、他のライバル配信者が承諾してくれるとも限らないし、私を陥れない、一緒にいてもこっちに変な被害が来なくて信頼できる人。それでいて、その人と組むのに正当な理由がある人がいいかな。

 その方がファン受けもいいだろうし。その決断を、ファンの熱が冷めないうちにしなきゃいけないのがすごく大変。


 寝っ転がりながら考えて、一人の人物が脳裏に浮かんだ。

 さっきまでの死闘が脳裏に浮かんで、1人の人物が思い浮かんだ。彼──見たことも聞いたこともない。でも、あの戦闘力。見たこともないくらいすごかった。


 ちょっと、話をしてみようかな。他に当てがあるわけでもないし。

 そして、さっきまでの疲れからか急に睡魔が襲ってくる。うとうとして、思考がまとまらなくなって慌ててベッドに入って布団にくるまった。疲労もあるし、ここで体を冷やしたら風邪ひきそうだし。


 ピンク色の毛布をかぶって、瞼がとろんと重くなる。こんなことになるなんて、思わなかった。これから、大変なことになりそう……でも、3人のためにも私、頑張らないと。




 そして璃緒はすっかり夢の中に入ってしまった。極限状態からの解放、リーダーとしてのプレッシャーは彼女の気力と体力を相当消耗させていた。

 ただ璃緒は大事なことを忘れていた。


 そう……配信。

 色々なことが起こりすぎたために、璃緒の意識から抜け落ちてしまったのはやむを得ないことと言える。


 が……その配信を巡って、ダンジョン界隈やSNS、某掲示板ではひと騒ぎになっていた。


 璃緒たちが地面に落とした配信用のスマホ………それは不完全ながらもいまだに機能していたのだ。偶然にも壁際に投げられ、それはネフィリムと澄人のやり取り、戦いを偶然にも記録していた。





 そして、視聴者たちがその模様を見て、謎の男……唐崎澄人のことについて知るようになる。彼がバズり始めるまで、そこまで時間はかからなかった。


 彼やネフィリムと、璃緒を中心とした物語が今始まるのだった。



☆   ☆   ☆


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