第7話 このダンジョンの、評判

「そち──いたのか」


 目を合わせた瞬間に話始める。世界の運命をかけて、死闘を演じた仲故の者だろうか。敵であった中にもどこか親近感を感じる。そして、ネフィリムの攻撃を力づくではじいて正面から向かい合う。剣を向けたまま、後ろにいる璃緒に視線を向けた。


「後は大丈夫です。3人を連れて、安全な場所へ避難してください」


 璃緒はしばしこっちを見て、フリーズしていたもののすぐに顔を振ってコクリと頷いた。


「ありがとうございます。私リーダー失格です。誰一人、仲間たちを守れないなんて」


「そんなことない」


 ゆっくりと立ち上がる璃緒に強い口調で言葉を返した。

 泣きながら言葉を返す璃緒に思う。

 最後まで戦っていた。そんな彼女がいたからこそ、俺が来るまで全員無事で持ちこたえたのだから。


 そして、倒れこんだ3人を引きずってここからいなくなるとネフィリムが話しかけてきた」


「ああ、澄人か。──久しぶりじゃ元気か?」


「元気? じゃない。なんでこんなところにいるんだよ!」


 旧友だったみたいに気安く話しかけてきた。親近感を抱いているのだろうが、かつては世界を掛けた戦いをした関係なんだぞ……。

 づかづかと、ネフィリムの元に速足で近寄る。


「なんじゃ? 貴様もわらわに挑むのか? 今度は負けんぞ! 対策もばっちりしておる」


「別に今回は殺し合いに来たわけじゃない。魔王軍の奴らも、散っていって人間たちに戦うそぶりはしなくなったからな」


「そうか、では──何の用じゃ」


 突っ込みたいところがいっぱいだ。一つずつ聞いていこう。


「このダンジョンを作った理由は?」


 そう言って、ネフィリムは両腕をつかんで俺と決戦をした後のことを語り始めた。


 決戦の後、仲間とともに命からがら北の大地に逃げたネフィリムと幹部、部下たち。

 行き場所がなくなった彼女たちはその後次元空間を逃げ、俺たちの世界のことを知ったようだ。


「じゃが──そのままでこの世界での共存は不可能だと話し合いで結論付けた」


「確かに」


 幹部以上はともかく、一般兵はろくに教育されてない。そんな状態で俺たちの世界に言っても共存は不可能だろう。


「わらわだって、何百人という部下を抱えておる。敗れても、彼らの生活を支えねばならない。面倒を見てきたから、わらわたちを支持してくれるのじゃ」


「それはわかる」


「この世界ではダンジョン配信が流行していると聞いた。ダンジョンなら、わらわも以前の世界で作った経験がある。だからダンジョンを経営して、ダンジョン協会から広告収入や権利料などを頂いて生計を立てておるのじゃ。もちろん、頭が良くて自立できるものは別にダンジョンを作ったり一人で戸籍を捏造して生活してると聞いておる」


「なんかすごいことを聞いてしまった気が。まあなるほどな」


「もう世界を征服するなんでことはせん。今わらわは、ついてきた部下を食わせるのに手いっぱいでのう」


 それなら、無理に倒す必要はない。大きく息を吐いて、剣を下ろす。ネフィリムからもさっきまでの魔力が消えていってるのがわかる。

 ただ、それには何とかしなきゃいけない部分も多いのも事実だ。


 ちょっと、それを指摘したほうがいいか。


「お前に敵意がないのはわかった。だが、収入を増やしたいなら改善しなきゃいけないところが山ほどある」


「そうなのか──まあわらわもダンジョンは初めてだしのう。じゃが、そこまでおかしかったのか?」


 ネフィリムはなぜ言われてるかわからず、きょとんと首を傾けている。こいつ……。

 この世界の感覚がわからないのかな?


「まずはこのオプションだ」


「充実したオプションじゃろ?」


 とりあえず、オプション画面を見せよう。まあ、生まれた世界が違うのだから常識や文化がわからないのだろう。


 設定のところを押して──こいつの言う「充実な設定」を見せる。



 設定



 ステレオ   モノラル





「どこがおかしいのじゃ、充実な設定であろうが!!」


 ネフィリムは強気な口調で腕を組んで答える。何がおかしいか、全く理解してないのがわかる。右手で頭を押さえて──全部言わないとわからないなと理解した。


 腰に手を当て、ぷんすかと怒っているネフィリム。どういえばいいか考えた後、説明に入った。


「とりあえずな、ネットはわかるか?」


「ああ。わらわだってこの世界で生きていくと決めた。じゃからそのくらいは勉強しておる。この世界の地理、文化、歴史。何でも質問してみるとよい」


「じゃあ話は早い。お前のダンジョンを調べてみるぞ」


 ネフィリム──今はこうして機嫌を損ねているが、何十万という配下を従えている魔族や世界中からはじかれた者たちを束ねている女だ。


 この世界の文化やしきたり、ネットなどの下調べはしっかりとしているみたいだ。

 ただ……ツメが甘い。ゲームやSNSは理解できても細かいバランスやそれをガバるとどうなるか教えてやる。


「確か、このダンジョンの名前はラス・クリムゾンだろ?」


「おう、そうじゃ!」


 ラス・クリムゾン──をネットで検索っと。

 予想通り出てきた。


 そして、検索結果をネフィリムに向かって見せつける。


「お前が覚悟をもって仲間たちを養おうとしているのはわかる。だが、これが世間が見たお前の評価だ!」



 ラス・クリムゾン もしかして



 ラス・クリムゾン クソ

 ラス・クリムゾン つまらない

 ラス・クリムゾン クソゲー

 ラス・クリムゾン クソダンジョン

 ラス・クリムゾン バランスがゴミ


「な、なんじゃここれは……」


「YというSNSでの、このダンジョンの検索結果だ」


「ク……クソ……わらわのダンジョンが?」

☆   ☆   ☆


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