第80話 エリーゼの感染
エリーゼ様が発症‥‥‥?
ゲオルグ様は青ざめて慌てふためいている。
この流行り病は発症すると致死率が高い。
発症したとなると予防対策は意味がない。
刺繍マスクも効果がない。
俺の作った手持ちのポーションも村で全て使い切ってしまった。
「どうしよう‥‥‥?」
「とにかくエリーゼ様の元へ」
ティナに言われて向かう事にした。
普通ならば面会謝絶だろうけど俺だからと通された。エリーゼ様は特別室とかではなく隔離された感染者部屋に横たわっていた。他の感染者と一緒に。
「ゲホッ! ゲホッ!! ‥‥‥エドガー様、このような‥‥‥ゲホッ! 姿をお見せして‥‥‥ゲホッゲホッ!! 申し訳‥‥‥ございませんわ‥‥‥」
普段のエリーゼ様とは見る影もない程弱っていた。状況は一刻を争う。
「くそぅ‥‥‥、ポーションがもっとあれば‥‥‥」
「いえ‥‥‥、ポーションは、ゲホッ! 他の方に‥‥‥使ってくださいな」
確かにこの状況でエリーゼ様だけに使うのは。他にも必要な人がここにいる。
「‥‥‥エドガー様。急ピッチで作成しておりまして一本だけはなんとかなりそうです」
セバスさんが寄ってきて耳打ちをした。
この一本はエリーゼ様に使うか‥‥‥、それとも他の人に使うか‥‥‥。
考えろ、エドガー!
お前の武器は小賢しい頭の中しかないだろう!?
ポーション‥‥‥肺疾患‥‥‥
!!!
「すみません! この感染症は肺に感染するんですよね!?」
近くにいた医官の人に確認する。
「そうです。それでこの一本のポーションは誰に使いますか?」
「いえ‥‥‥ここにいる人全員に使います」
「それだと容量として足りませんよ‥‥‥」
「ポーションの使い方を変更します!!!!」
「ポーションの使い方を?」
医官の人からは当然の疑問だ。普通の使い方じゃないからな。
「ポーションを霧状にして吸入させます!」
ポーション一本を飲ませると病の原因を減らして体力を回復させる。
ポーションを肺にのみ行き渡らせれば体力の回復は出来ないが病の原因は減らす事が出来るはずだ。
「面白いわね‥‥‥それでやってみましょうか。でも霧状にするにはどうやって?」
「‥‥‥ティナ」
ティナが取り出したのはイブが出がけにくれた『噴霧器』だ。
容器に入れた液体に細い管を立て、その上部に高速で空気を吹き付ける。するとベンチュリ効果により負圧が発生し、管から液体が吸い上げられる。吸い上げられた液体はその空気によって霧状に噴射される。
村で使っていた消毒用アルコールを噴霧するのとは少し違うが構造はほぼ一緒だ。
こちらは魔石を使ってごく弱い風魔法で長時間霧が発生する。
日本で言うところのネブライザー吸入のようなものだ。これなら一人当たりのポーションの量は少なくても間に合うはずだ。
「やってみましょう。私は【ポーション治療】のスキルを持ってます。お任せください」
「ではよろしくお願いします」
ちょうどよく都合の良いスキル持ちがいたものだ。良かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
医官の方が魔石ネブライザーを順に使ってポーションミストを吸入させた。そこにいた全員の症状が落ち着いた。
患者は体力を回復させるためかみんな寝てしまった。咳などはもう出ていない。
「‥‥‥咄嗟の判断でこんな方法を思いつくなんて。すごい人ですね」
「それでも先生が居なかったらみんな助からなかったと思います。ありがとうございました」
その後も感染症対策の話をしたら感激していた。話のわかる医官さんだな。
「名乗ってなかったですね。俺はエドガー・テオドールと申します」
「エミリアよ、この街の保健衛生所の所長をしているわ。よろしくね、エドガーくん」
「こちらこそです、ドクターエミリア」
握手は出来ないので肘でタッチをした。
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