第66話 春になった
季節は流れ、暖かい日差しが差し込む日が増えてきた。春の始まりだ。
「よし、苗を育てよう! 苗箱に種籾を蒔くぞ!」
苗箱に土を詰めて均等に種籾を蒔く。その上から柔らかく土を被せる。
温かい場所に置き、水を撒く。
苗を育てるためにビニールハウス的なものが出来ないものだろうか?
透明な薄い生地で光は通すけど水と風は通さないような‥‥‥。
あ、あったわ。ドワーフたちのところへ。
「イブは居る? 頼みたい事があってさ」
「はーい、何? ロキソじゃなくてアタイになんて珍しいね?」
かくかくしかじか伝える。
「あいよ! クリスタルで作れば良いかねえ?」
「あぁ、それで頼むよ」
ビニールハウスならぬクリスタルハウスを作ってもらえる事になった。
「今は暇だからすぐにやるよー。明日まで待っててね」
安心と信頼と実績のドワーフ工房、相変わらず仕事が早いな。
「オリザ酒のために頑張ってくれよ」
「そう聞いたらより気合が入るねぇ! ロキソ、ザルト!! 仕事だよ、起きな!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、巨大なビニールもといクリスタルハウスが出来ていた。
「これは構造自体は単純だからねえ。素材もちょうどあったからね」
ドワーフの中にはクリスタルを接合する事が出来る職人がいて、イブのスキル【非金属加工】がまさにそれに当たるらしい。
「んで、こいつは何に使うんだい?」
「温度が一定に保てるからな。寒い時期でも夏の野菜や果物なんかを育てる事も出来るんだよ」
「はぁー!! さすがエドガーだね」
「そこはエドガー様ですからね!」
なんでお前が偉そうなんだ、ティナ。
「よし、苗箱をここに全部運ぶぞ。室温、湿度も高くするんだ」
オリザ自体は基本亜熱帯の植物なので暑くないと発芽しなかったはずだからな。
「今日は陽は出てるけど風で冷えるからあまり気温が上がらないんじゃない?」
「そしたらこう蝋燭を立ててだな‥‥‥」
長時間火を灯して室内の二酸化炭素の濃度を上げてやる。温室効果ガスとはまさにこの事だ。
光合成にも二酸化炭素は必要だし一石二鳥の方法な訳だ。
その代わり人間は長居しない方がいいけどな。
毎日育ちを観察しよう。そして15〜20センチくらいになったらいよいよ田植えだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
順調に苗も育ち、いよいよ田植えの時期だ。
大昔ならみんなで田圃に入って一列に並んで手で植えたのだろうが‥‥‥、なるべく楽をしたいからここも魔道具を作ってもらった。
『一定の間隔で苗を植える魔道具』だ。田植えの機械は何度も見た事があるから俺のイメージは問題なかった。が、ロキソ達に上手く伝わらなかったようで。
日本の田植え機と見た目はだいぶ違うけど植えられるなら問題はない。
それでも全ての田圃の田植えが終わるまで六日ほどかかった。
「ふう‥‥‥これで終わりじゃないぞ。田圃の水を毎日見て水量を調節するんだ」
「こんなに手間が掛かって大変なら麦の方が良かったのではないのですか?」
麦と米で決定的に違う点が二つ。
一つは収量。同じ面積であれば米は麦の1.5倍だ。
もう一つは水田であるため連作障害がない事だ。稲の病気とかにならなければ基本的に毎年同じ量の米が取れる。
オリザと米が一緒かどうかはわからないけどな。
青々とした植えられた苗が風に吹かれて揺れていた。
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