第39話 お仕事の話

「いやぁ、実に美味かった。素晴らしい料理を生み出してくれた礼に何か褒美を授けねばならんな」


 よっしゃ、キタコレ!


「それならば大変不躾ながらこちらから少々ご提案がございます。よろしいでしょうか?」

「うむ、言ってみよ」


「テオドールの村で新しくやりたい事業が3つございます。可能であれば援助していただきたく思います」

「ふむ‥‥‥パーシヴァルからの手紙で簡単には聞いておったが。詳しく教えてくれるか?」


「まず一つ目は城壁の完成です。これは引き続きドワーフによる建築魔法で作るので特にご支援は不要です」


「あそこに要塞が出来たのは大森林の警戒に対して非常に大きな良い影響となる。正直言って本当に助かった。ありがとう」


「次に農地の拡張と農業改革を行いたいと思ってます。現在の北西部の農地の分を東、南側へ拡げたいと思っております」


「ふむ、それについては許可しよう。開墾のための労働力もこちらから提供しよう。で、農業改革と言うのは?」


 以前村長に話した「輪栽式農業」の話をした。従来の穀物生産(小麦)に加えて飼料作物として栽培牧草(この世界だとクローバーにそっくりなクロッブという草)や、根菜類に代表される中耕作物(カブなど)の栽培を行う農法の事だ。


「うむ、詳しい事はオレにはわからん。オレは軍事専門だからな。食料が多く取れるようになるのならば構わん。あとで農業顧問官と相談してくれ」

 食料が増えるなら‥‥‥と言質が取れた。


「最後の一つは村の名物としての酒を製品として売り出したいと思っております」

「ほう! それはいいな。詳しく聞かせろ」


 やはり酒好きは本当だったか。他の二つと食いつきが違う。

「現在は各家庭でそれぞれ酒を作って飲んでいる状態です。それを専門に作る人と醸造所を設けてしっかりと製品として作ろうと思っております」


「テオドールの酒は確かに美味い。が、年によって味が変わったりするんだよな」

 毎年お忍びで訪れているだけの事はあるな。


「主にエールとワインを作り、更に『火酒』も作りたいと思います」

「‥‥‥何? 火酒だと!?」


 ん? 思った反応と違うぞ。パーシヴァル卿の手紙に書いてあったんだろ?


「帝国で唯一作られている秘蔵の酒だぞ! オレだって一度しか飲んだ事はないんだ。エドガー、お前作り方知ってるのか!?」


 パーシヴァル卿、手紙に書き忘れたのか? 

 それとも書いた後で飲んだのか?

 よりによって一番大事なところを‥‥‥。


「‥‥‥存じております。ここでやって見せましょう。ロキソ、アレを」

「おう!」


 スチルポットを出してもらい連結してもらう。

 ワインを入れてティナが手を翳して温める。みんな、もう三度目だからお手のものだな。


ポタッ‥‥‥ポタッ‥‥‥


 しばらくすると蒸留した滴が垂れてくる。ワイングラスで受けて溜める。


「‥‥‥これか!! これが火酒の正体か!」

「もう少し貯まるまでお待ちください」


 ウィスキーの通常の工程だと二回蒸留するがこのお試しは一回だけにしている。

 

 原酒の量が10だとするとで二回蒸留すると1の量になるらしい。一回の蒸留でアルコール濃度は約3倍に、二回で9〜10倍になるのなら理屈は合うよな。

 ようやく溜まった。ワイングラスをゲオルグ様に差し出す。


「帝国の火酒はもっと色が付いていたはずだが‥‥‥」

「これを樽に詰めて三年以上熟成させると色が変わるのです」


「なるほど、ではいただくぞ‥‥‥」

 グラスを傾けるゲオルグ。


「‥‥‥うむ。味は尖って若いが確かに火酒に間違いない。エドガー!」

 まだ残っているグラスを置いて俺の肩を強く掴むゲオルグ様。


「‥‥‥人も金もいくらでも出そう。エドガーよ、テオドールでこれを作れ!!」

「承知致しました。是非成功させてみせます」


 こうして辺境爵様の承認と協力を得た。


「夕飯も共にしよう。それまで街をゆっくり見るもよし、部屋でくつろぐもよしだ」


「あの‥‥‥一応俺流刑者なんですけどこの街ウロウロして良いんですかね?」

 一応今更だが確認してみた。


「構わん! オレが許す!!」

 よし、言質は取ったぞ。

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