あやかし学園危機一髪!

城間盛平

亜子入学

 亜子は目の前の両親の泣き出しそうな顔を見返した。亜子はこの日家を出て学園の寮に入る事になる。


 父親の重光は目に涙を浮かべながら言った。


「亜子ちゃんが寮に入っちゃうなんて、パパ寂しい!」


 亜子はため息をついてから父の重光に言った。


「もう、パパったら。休みの日には帰ってくるから泣かないで?」


 亜子は重光の大きな背中をなでた。父の重光は感情の起伏が激しくなると、変化が解けてくるのだ。重光の大きな身体はさらに大きくなり、肌は赤くなり、鼻が伸びる。亜子の父親、重光は天狗なのだ。


 母親の弓子は重光に厳しく言った。


「パパ!変身が解けかかっているわ!亜子の門出なのよ?笑顔で送り出してあげて?」


 母親の弓子はれっきとした人間だ。天狗の父と人間の母が恋に落ちて、亜子が生まれたのだ。亜子は天狗と人間の間に生まれた半天狗なのだ。


 亜子はニッコリ笑って、父親にギュッと抱きつくと、次に母親としっかり抱き合った。弓子は亜子を優しく見つめて言った。


「いってらっしゃい。亜子」

「いってきます」


 これ以上この場にとどまれば、亜子もしんみりしてしまう。亜子は妖力で天狗の扇を取り出した。亜子が目をつむり、意識を集中すると、背中からカラスのような真っ黒な翼が生えた。父親ゆずりの天狗の翼だ。


 亜子は実家のリビングのガラス戸から外に出ると、手に持った扇を軽く振った。小さな風が発生する。背中の黒い翼は、風を受けて大きくひらく。亜子がもう一度扇を振ると、一気に上空まで上昇した。


 亜子は眼下に見る実家を見下ろす。家の庭では両親が大きく手を振っている。亜子も軽く手を振ってから、もう一度扇を振った。亜子は目にも止まらない速さで空中を飛んだ。


 亜子は父親ゆずりで沢山の妖力を受け継いだ。風を起こす力と、翼で空を飛ぶ力もその一つだ。


 亜子は定期的に扇で翼に風を送り、グングンと飛行速度をあげていった。父の重光が別れを惜しむもので、入学式に遅刻すんぜんなのだ。


 しばらく飛ぶと、何もない空間に結界が見えた。普通の人間には目視できないが、あやかしや半妖なら分かる結界だ。亜子は迷いなく結界の中に飛び込んだ。


 そこは都会のビル群とは一変していた。緑豊かな山々に囲まれた、小さな木造校舎が眼下に見える。これから亜子が三年間過ごす事になるあやかし学園だ。


 学校の校庭には、沢山の生徒が並んでいた。どうやら入学式はすでに始まっているようだ。


 

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