第58話 第二戦
一戦目はリックが圧倒し、帝国兵団が勝利を飾った。
いまだその興奮と驚きに会場がざわめく中、次鋒が舞台に立つ。
第二戦は、背の高い黒髪の青年が相手。
そしてこちらは……兜で頭部をきっちり守っている兵士。
あれ、ミハエルだよな?
まあ兵団ではよく使うからおかしくはないけど、なんで急に兜を着けてきたんだ……?
「これ以上負けてやる必要はないぞ。ここできっちりレベルの違いを教えてやれ!」
「その通りだね。考えようによっては初戦の敗北が良い演出になる。まさかの敗戦。広がる動揺の中からの二連勝。盛り上がると思わないか?」
「おお、それがいい!」
先鋒が敗れた師団の者たちは、リーダーの男の言葉にまた余裕を見せ始めた。
そんな中、兜のミハエルと次鋒の師団員が、舞台の真ん中で向かい合う。
「――――第二戦、始め!」
皇帝の声と共にラッパが鳴り、戦いが始まる。
「【フリーズボルト】!」
初手はいきなりの氷弾。
「【フリーズボルト】【フリーズボルト】【フリーズボルト】!」
「っ!!」
始まる連射に、ミハエルは必死の回避で対応する。
「【エアカッター】!」
「っ!?」
ここで放たれた風の刃は、まさかの四枚刃。
一般的なものより一枚多い。
ミハエルはこれをギリギリまで引き付けから、二度のステップでどうにか回避してみせた。
見事な回避に、思わず兵士たちも歓喜の表情を見せるが――。
「【サンダーボルト】!」
すぐさま続く雷撃。
「くっ!」
氷弾の連発で流れを取り、一枚多い風刃でバランスを崩したところに、『上から来る』早い雷の攻撃。
同じ魔法でも、組み合わせ方がうまい……!
ミハエルはこれを、強引な横っ飛びからのローリングで回避。
「【ファイアランス】!」
慌てて起き上がったところに、迫るのは炎の矢。
「「「決まったぁ!」」」
観戦中の師団員たちが、勝利を確信して声を上げる。
ただ魔法を放つのではなく、適切な流れで敵を崩して当てる。
魔法による連携は、見事だ。
「はあっ!!」
「かわされた……!?」
しかしミハエルはこの連携を、急な高速移動でかわした。
「ここだ!」
師団員が驚きの中にある状況を見逃さず、動くミハエル。
その姿が、残像のようにかすむ。
次の瞬間、一気に距離を詰めたミハエルが剣を振り下ろす。
「くっ!」
一気に『剣の間合い』まで距離を詰められた師団員は、必死の回避でミハエルの攻撃をかわす。
続く振り払いも、不格好なバックステップでやりすごした。
「まだまだっ!」
ミハエルは【高速移動斬り】を、『移動』や『回避』のためにも使い始めている。
魔術師団も剣の練習はしているだろうが、急加速する相手との戦いなんて経験がないはずだ。
「おい! 何をやってる!」
「相手は雑魚の兵団だぞ!」
聞こえてくる、師団員たちの焦りの声。
次鋒の男はバックステップによる回避から、急いで体勢を整える。
ここでまた優位を奪い、魔法で攻める。
そんな意志からか、杖を持った右手を先んじて前に向け、続く形で視線を上げた。
「なっ!?」
ミハエルはすでに、高速移動で迫ってきていた。
「オオオオオオオオ――――ッ!!」
放たれる斬り抜けに、師団員はなりふり構わず全力でしゃがみ込む。
交差する二人。
師団員はミハエルの剣を、運よくかわすことに成功。
こうして互いに、背を向け合う形になった。
「終わりだッ!!」
もはや師団員に余裕などなし。
その場に両ひざを突いたまま、振り返りと同時に放つ魔法。
「【フレイムバスター】ァァァァァァ――――ッ!!」
狙いを絞るなど必要なし。
その魔法なら広い攻撃範囲によって、放った瞬間に勝負を決めることができる。
ただし、それは相手がかつてのミハエルなら。
どうしたって大きな炎を繰り出されれば、驚きや恐怖に『攻め』の姿勢を奪われ後手になる。
そうなれば魔術師は、一気に優位を取れるだろう。
だが『魔女・エル』の魔力を持つエリシアの放つ炎を見てきたミハエルは、この程度の炎を恐れたりしない。
最速のターンから放つ【高速移動”反転”斬り】が、炎を放つ直前の杖を弾き飛ばす。
放たれた炎が、空を豪快に焼く。
舞い落ちる火の粉の中、ミハエルの剣がゆっくりと師団員の眼前に向けられた。
「そこまで!」
勝敗が決し、皇帝ジェラルドの声が響く。
わき立つ兵団、言葉を失う魔術師団。
真っ直ぐ二人のもとにやってきた皇帝は、そのまま――。
「あっ」
ミハエルの兜を取った。
「……正体を隠せば、忖度なく相手が戦ってくれると踏んでの参加だな。ミハエル」
「す、すみません。父上」
「相手がミハエルだと気づいていた可能性もある。この勝負は禁を破った帝国兵団の反則とする。勝者、魔術師団!」
そんな裁定を受けたミハエルは、申し訳なさそうに帰ってくる。
「レオン将軍、みんな、すみません……っ!」
深く頭を下げたミハエルの、落とした肩を叩く。
どうやらミハエルは、模擬戦に参加しないよう皇帝に言われていたようだ。
その理由は、貴族は相手が王子だと知ったら『譲って』しまうからだろう。
そしてミハエルは、兜で顔を隠すことにしたわけだ。
「ちくしょう……っ!」
相手師団員は、悔しさで杖を地面に叩きつけた。
やはり、相手がミハエルだとは気づいていなかったようだ。
そしていくら王子が相手とはいえ、『新兵』に敗北したことは事実。
思わぬ結果になったけど、師団にしてみれば試合に勝って勝負に負けた形だ。
その雰囲気はいよいよ、憔悴を含んだものとなる。
一方こっちは、兜で戦って怒られた王子に皆笑っている。
大将として控える兵長も、そんなミハエルを見て緊張が解けてきたようだ。
「いよいよ大将戦だ。頼むぞ兵長」
「はい!」
笑みと共に、力強く応える兵長。
だが、将軍としての勘が告げている。
魔法師団から出てくる大将は、リーダーの青年。
彼は間違いなく、強い。
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