第28話 転移 = 防御力


≪さすがはマスター。あの気むずかしいというか面倒くさいうたかたの恋フレイルから認められるとは≫


 しれっとした顔で拍手をするアズであった。王家の宝はこんなのばっかりか。


≪しかし、勇者装備として名を馳せたうたかたの恋フレイルのマスターになるとは……さすがは私のマスターですね≫


 え? マスターになったの? アズみたいに魔力を流し込んだりはしてないけれど?


浄化ライニの魔法を注いだではないですか。その時にうたかたの恋フレイルに施されていた呪いも解呪されましたし、そのままマスター登録となったのでしょう≫


 さらっと口走ったけど、呪いって何よ? やっぱり一度付けたら外せない系の呪いの装備なの?


≪制作者からの命令ですが、我らにとっては呪いですね。マスターとなった者には絶対服従。それに加えて私にはランダム転移の呪いも掛かっています≫


 う~ん、うたかたの恋フレイルみたいな強大な効果を発揮する魔導具なんだから、そのくらいの制約というか制限は付けておくべきだとは思うけど……道具本人からしてみれば呪いらしい。


 というか、アズのランダム転移も『呪い』扱いなのか。


 …………。


 ものは試しとアズにも浄化ライニの魔法をかけてみる。メイドの姿をしたアズの身体が淡い光に包まれて――ぷつん、と。何かが切れるような音がした。


≪っ! ――っ! ――マスター!≫


 呪い(?)が解けたことに感激したのかアズが私に抱きつこうとして、




≪――転移≫




 私に触れる直前、左手首のうたかたの恋フレイルからそんな声が聞こえた。


 途端、私の目と鼻の先にまで近づいていたアズの姿がブレ・・て――消えた。


 転移魔法?


 こんな簡単に? あんな短い詠唱で?


 ……あぁ、なるほど。マスターに危険が迫ったとき、うたかたの恋フレイルの意志で敵を転移させてしまうのか。そりゃあ勇者様も防御力に期待してうたかたの恋フレイルを装備品に選ぶってものだ。


「……アズはどこに行ったの?」


≪どこに飛んでも、大した影響はないでしょう。彼女、頑丈さだけが取り柄ですので≫


 辛辣な(そしてとても美少女な)声をあげるうたかたの恋フレイルであった。王家の宝はこんなのばっかりか。


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