第16話 誘拐された子供たち
道案内を兼ねて、山賊の頭領を引き連れて洞窟の中を進む。洞窟の規模はかなりのもので、特に天井は見上げるほどの高さがある。
湿気に不快度数を上げながらしばらく進むと、居住区として使っていたらしい広場に到着した。
「ふ~ん……」
かなり荒稼ぎしていたらしく、広場の中にはそれなりの財宝が置いてあった。貴族が使うような宝飾品に、金貨、魔導具っぽいものに、なにやら儀式用っぽい剣まで放置されているわね。さすがに面倒くさいから一つ一つ鑑定はしないけど。
そんな中。
誘拐されたらしい子供を二人見つけた。首輪を嵌められて逃げられないようにされている。
子供。
男の子と、女の子。
それ自体は珍しいものではない。もしも貴族や商人の子供なら身代金を期待できるし、そうでないなら奴隷として売り払えるからだ。大人の奴隷は即戦力としての需要があるけれど、子供は子供で『教育しやすい』という理由で人気があるのだ。
だから、誘拐されていたのが子供なのは珍しい光景ではない。
めずらしいのは――その子供が『獣人』だったことだ。
頭部から生えた犬のような耳と、お尻には長い尻尾。よく見ると爪も鋭いのでまず間違いなく獣人の子供でしょう。
この国には獣人の自治区が存在するけれど、その自治区は北部の王領地に存在しているので目にすることは滅多にない。
ということは……この人たち、王領地の中にある自治区に忍び込んで獣人を誘拐したのかしら? なんて命知らずな……。
いや、この人たちの実力では誘拐するどころか自治区に忍び込むこともできないだろうし、となると外国から来たか、自治区から自分で出てきた子を誘拐したのかしらね?
その辺を尋ねるために私は子供たちに近づき、首輪を魔法で外し、両膝を突いた。
「大丈夫? ケガはない?」
「――――」
怯えながらも何かを口にする子供。でも、その意味を理解できなかった。言葉が拙いと言うよりは、言語自体が異なる感覚……。
あー、獣人は使用する言語が異なるのか。かつて私も王太子妃候補だったから複数の外国語を習得させられたけど、さすがに獣人の言葉は分からないわねぇ。
「え~っと、」
もしかしたら通じるかもしれないので、エラン語、ラスペル語、リーシュタルト語と思いつく言語で話しかけるけど、芳しい反応はなし。あとは――
『――こんにちは。ケガはない?』
『……はい。ケガ。ない』
お、片言ながら意思疎通できた。なるほど今ではあまり使われない大陸共通語ね。権威主義の神聖リーンハルト帝国くらいしか使用していないやつ。
『助けに来たのだけど、お家は分かる?』
『……分からない。です』
『そっか……』
たぶん自治区から来たのだろうけど、外国から連れてこられた可能性もゼロじゃないのよね。う~ん、最終的には王都まで連れて行って騎士団にお任せするとして……。その前にご飯にしましょうか。
盗賊のアジトだけあって食材も見つけたので、簡単なシチューでも作りましょうか。もちろん前世知識でのシチューだ。こっちの世界にも似た料理はあるけれど、公爵令嬢が料理をするなんて許されないので作り方は知らない。
この世界にはルーなんてないけれど、小麦粉はあるから何とかなるでしょうきっと。
洞窟の中で火をおこす訳にはいかないので一旦出ましょうかと私が立ち上がると――
「――くそがっ!」
と、なんとも小汚い声が響き渡った。
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