正統王家の管財人 ~王家の宝、管理します~

九條葉月

第1話 正統王家の管財人


「――よし」


 姿見の前で私は気合いを入れ直した。


 転生後・・・からすっかり馴染んでしまった『銀髪赤目』は今日も変わらず。自分でも驚くほどの美少女っぷりにも変化無し。変わったことと言えばやはり服装だろう。


 20歳の誕生日。

 1年ぶりに喪服を脱いだ、この日。


 私は王家に仕える文官の制服に身を包んでいた。


 王国の紋章があしらわれた白シャツ。

 貴族子女に相応しい上品なロングスカート。

 気高さと不正のなさを示すかのような白いローブ。

 胸ポケットには『管財人』を示す文様が刻み込まれた懐中時計と、それに繋がる鎖。


 任官したときに渡されてはいたけれど。弔意を示すため、ワガママを通して今日まで着ることがなかった服。正直、なんとも汚れに弱そうだけれども。王宮の文官はそんな汚れるような場所には行かないということなのだと思う。


 亡くなった人を忘れることはできないとはいえ。いつまでも縛られているわけにはいかないし、『お父様』も喜ばない。


 1周忌という節目。そして20歳の誕生日。気持ちを新たにするにはぴったりの日付でしょう。


 そうして私が気合いを入れ直し、さっそく仕事に取りかかろうとしたところ。



「――リリーナ嬢。緊急案件だ」



 カイゼル髭の似合う初老男性――お大臣様が深刻な顔をしてやってきた。彼が現役侯爵でなければ『余計な問題を持ち込むな!』と蹴りを入れているところだ。


 しかしここは身分制度の国。侯爵閣下な大臣さまを蹴り上げるわけにも行かず。私は渋々彼から話を聞くことにしたのだった。


 いつもなら許可も取らず勝手にソファに座るところ。なのに、今日は珍しく私をジロジロと見つめてくる大臣であった。喪服以外を着ている私が珍しいのかもしれない。


「……そうか。もう一年か」


 少し寂しげな顔をしたのも一瞬。すぐさまふてぶてしい顔を作った大臣は偉そうにソファに腰を落とした。いや実際偉いんだけれどね。


「また王太子殿下が厄介ごとを持ってきてな」


 いかにも『私は被害者です』みたいな顔をしながら深々とため息をつく大臣。そんな彼に同行した近衛の騎士が机の上に置いたのは、何の変哲もない宝箱。


 いやゴメン嘘ついた。変哲ありまくりだわ。


 フタにはこれでもかってくらいお札が貼り付けられているし、禍々しい邪気が放たれているし、なんだったら誰も触れてないのにガタガタと震えている。


 よくもこんな、触っただけで呪われそうなものを持って来られたわね、近衛騎士様。


 怖いもの知らずな近衛騎士に感心するやら呆れるやら。微妙な心持ちになりつつも私は大臣に問いかけた。


「王太子殿下ですか。今回は何をやらかした・・・・・のですか?」


「例の旧公爵家案件だ。あの宝物庫から見つけてきたらしい。……君なら何か知っているのではないか?」


「あー……」


 そう言われてみれば、昔『目録』で見たことがあるかも? あの説明文には確か……。


「……契約を破った悪魔の右手が入っているとか、この世を恨みながら処刑された魔女の心臓が入っているとかの噂がある宝箱ですね。いわゆるいわくつき・・・・・


「そうか。ではリリーナ嬢に任せよう」


「……いやいや待ってください。そんな呪いの物品を置いていかないでください。うちを何だと思っているんですか?」


「王太子殿下が収集した以上、それは王家の所有物だ。そして、王家の管財人であるキミにはそれを管理する義務がある」


 なんともまぁスラスラと建前を並べ立ててから足早に部屋を出ていく大臣であった。そろそろ蹴っても許されるんじゃないかしら私?


 続々と集まる宝物という名の呪物。それらが詰め込まれた隣の部屋のドアからは禍々しい邪気が漏れ出している。ような気がする。そろそろ呪いが悪魔合体して王城くらい滅ぼせるんじゃないかしら?


「……どうしてこうなったのかしら?」


 現実(邪気溢れる隣部屋)から目を逸らすように窓の外を見上げながら、私は(現実逃避も兼ねて)こうなった原因の出来事を思い出してしまうのだった。

 



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