第21話 スキルの片鱗

「珍しいですね、貴方が剣の修練など…。」

 珍しく、精霊女王アイリスの住む森で研鑽を積んでいるレイ。

「ああ、強敵が現れたからね。」

 剣を振るいながらレイが答える。

「まさかっ?!」

 アイリスが口元に手をあて、大げさに怯えてみせる。

「む・す・め、だよっ!」

 いい汗をかきながら、レイは笑顔で答える。

「あらあら、将来が有望のようね?」

「だな。」

 談笑の耐えない二人であった。


 さて、くだんジュリアはと言えば…

「さぁ、今日もお勉強しましょ~ぉ~ねぇ~。」

「んげぇっ!」

 鬼ママアビー英才教育じゅぎょーに付き合わされる不憫おちゃめジュリア


 ◇ ◇ ◇


 レイの仕事のお供に付き、剣姫の片鱗を見せ始めるジュリア。

 そんなジュリアを慕ってか、レイの仕事仲間もレイの自宅に来る機会が増えてきた。


「いらっしゃぁ~いっ!」

 努めて明るく振る舞うアビーなのだが、彼女の正体に薄々気付いているレイの仕事仲間は警戒心を解かない。

 そんな母親アビーの姿を見かね助け舟を出すジュリア。


「おかぁ~さぁ~~ん、たっだいまぁ~~!」

 元気よく母親アビーの胸に飛び込み、大げさなまでに甘えてみせるジュリア。

 その屈託のない母娘おやこの姿に、拍子抜けしてしまうレイの仕事仲間。


 自ずと緊張感も解れ、今ではレイの仕事仲間だけではなく、多くの人々がレイの自宅を訪れるようになった。

 そして、アビーも誰に注意を払うわけでもなく、ジュリアと連れ立って露天や商店へ買い物へ行く機会が増えた。


「あらぁ~、ジュリアちゃん♪

 アビーちゃんも、いらっしゃ~い♪」

「こんにちはぁ~。」

 露天に立ち寄った母娘を優しく迎え入れる女性店主と、笑顔で彼女に応える母娘。


(この娘は、本物です…。)

 娘の行動によって、自身に向けられていた誤解が解かれていく事を実感したアビー。


(誇り高き貴族たる器の娘…。

 ああ、育てたい…この娘を…本当の貴族に!)

 ジュリアの持つ天賦の才しょこうまつりごとを体現できる”無心の志”に惚れ込んでしまったアビーは、己の学んできた『帝王学』の全てを叩き込む決意をしたようです。


 ◇ ◇ ◇


 積み上げられた分厚い本の林に挟まれ、不機嫌そうなジュリア。

「これが、終わったらおやつにするから、もう少し頑張りましょうね。」

 飴の使い方がイマイチ下手っぴなアビー。


「…分かったわ、ママ。」

 ご不満全開のジュリアではあるのだが、アビーの懸命な指導に負けたのか、大人しく勉強にしている。

 知ってか知らずか、そんなジュリアの頭に優しく手を置き、愛おしそうに頭を撫でるアビーだった。


 ◇ ◇ ◇


「…で、あなたは何時までここでアブラを売ってるのかしら?」

 いい加減、レイの修練を見飽き始めたアイリス。

「ああ、夕飯が始まるまでには帰るよ。」

 相変わらず、剣を素振っているレイ。

「それって、いつになるの?」

「夕日が沈めば、すぐだよ!」

「…そうなのね?」

 レイとの受け答えで、すっかりゲンナリするアイリス。

 無心に剣を素振っているレイ。


 夕日は稜線から姿を消し、森もだいぶん薄暗くなっているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Königin-Kandidatin たんぜべ なた。 @nabedon2022

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ