第50話 消えた盗賊たち
ハイエルフの人たちがハロウィン国に来て一月ほど経った。今のところ大きなトラブルもなく、移住は成功している。
ハイエルフと言うと、プライドの高いイメージが合ったから、ハロウィン村の住民である獣人や人間と衝突しないかと心配だったが杞憂に終わった。
むしろ、ハイエルフめっちゃいい人たち。
長年生きてきたからなのかとにかく物事に動じないし寛容でやさしい。月並みな表現だが植物のような穏やかな心を持っている。
それでいて知識は豊富で魔法も使えるので、とても有用な人材だった。一人ひとりが強力な魔法使いなのでモンスター退治でも頼りになる。ハイエルフ達はいまやハロウィン国の中核戦力だった。
ユグの木による防衛線の構築も順調に進んでる。まずハロウィン村の周囲にユグの木を植えた結果立派に壁として機能することがわかった。そこで今は旧ハイエルフの森を含む周辺の土地全体を囲うように植えていっている。
事実上これがハロウィン国の国境線になっていた。ユグの木が生えているところにモンスターは近づかないので、畑仕事は安心してできるし周辺からの移住者も安全に来られるしでいいことづくめだった。
ハロウィン国の土地はまだ大して広いわけじゃないけど、それでも全体を囲むようにユグの木を植えていくのは大変だった。俺の《花咲かじいさん》が無かったらとても不可能だったろう。大変だけど、ユグの木で囲うとその場所がちゃんと『ハロウィン国の土地』って感じになっていい。
物理的な壁ができて安心感が増したのか、ハロウィン国に移住してくる人も日増しにやってきた。来た人に訊ねると、砂漠に突然森ができたような光景でとても目立っているらしい。森とハロウィン国の噂は周辺に広がっていて、あの森を目指せば大丈夫だと避難所のように思われているんだとか。
防衛線も畑も順調にできて、人口も増えて、この一ヶ月は驚くほど穏やかに過ぎた。
一番の懸念だった周辺に出る盗賊だが、これは問題にならなかった。そもそも盗賊が出なかったのだ。
ウサやカヅノさんの話していたような盗賊はどこにもいなかった。肩透かしというか、姿も見えないのはかえって不気味だった。
◆◆◆◆
ハイエルフの森再生と移住に目処がつくとすぐに、汨羅はかつて関わりを持っていた盗賊を潰しに行った。
しかし向かった先のアジトはすでにもぬけの殻だったそうだ。
「失敗したわ、逃げられた。たぶんどこかで私がハロウィン村側についたことを感づいたのよ」
手ぶらで帰ってきた汨羅は悔しそうに言った。
「そういうの、わかるもんなのか?」
「こういう危険にだけは敏感な連中なの。悪いやつほど動物敵直感が働くんだから」
「他のアジトに当たりはあるか?」
「私もそんなに深く付き合っていたわけじゃないからね。必要なときに呼びつけたり命令するだけだったし……。このエンドア砂漠のどこかに隠れられたら、ちょっと探しようがないわね」
「そっか……」
「まあ、どっかで尻尾を出すでしょう。盗賊は盗賊。どっかで奪わなきゃ生きていけないわけだし」
しかし盗賊はその後も姿を表さなかった。
俺達は不思議に思いながらもどこかに出没したら倒しに行けばいいと考えて……あっという間に一ヶ月も経ってしまったのだ。
◆◆◆◆
盗賊たちがどこに消えたのかわかったのは、さらに一週間ほどしてからだった。
ある日、カヅノさんが移住してきた人たちから気になる噂を聞いたと話し始めたのだ。
「ブラッズクリプスという大きな盗賊団があるのですが、最近そこが急に手勢を増やしているそうです」
「ブラッズクリプス?」
「ええ。エンドア砂漠の南方を根城にしている盗賊団です」
エンドア砂漠は広い。俺達が今いる場所一帯は砂漠の中央部に当たる。
広いとは言え、南に下った先で大きな盗賊団が活発化しているというのはあまり気分の良いものじゃない。
「もしかして、最近ここらで盗賊を見かけないのは……」
「どうもブラッズクリプスに合流しているようですね。一ノ瀬殿がもう盗賊と関わらないことが噂で伝わって、そちらに逃げ出しているのでしょう」
「はあ〜〜〜〜〜」
俺達ががんばってハロウィン国周辺を安全にしたら砂漠の身寄りのない人が集まってきたように、盗賊たちは危険になったから別の土地の頼れる組織に集まっているってわけか。
カヅノさんは暗い表情のまま続ける。
「それと……その話を聞いてから気になっていることがありまして」
「?」
「
「まさか」
嫌な予感のした俺はすぐに畑仕事を中止すると、他のメンバーに行き先を告げてから砂漠へ飛び出した。
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