第46話 宴会

 入浴を済ませ浴衣に着替えた俺は時間通りに夕食へ向かった。

 ちょうど女子組とも合流できたので、そろって会場に入る。


「「わ〜〜〜〜〜〜っ」」


 宴会場に入った汨羅と喜桐は感動の声を上げた。


「すごい、ちゃんと立派な、お料理が。日本食が……」

「お宿のご飯、お宿のご飯だ……!」


 宴会場のテーブルには、焼き魚に煮物や焼き物、炊き込みご飯といった食事が並んでいた。

 割烹着を気た雀女将がおひつを傍らに迎えてくれる。


「チュンチュン!」


「どうぞ、お好きな席におかけくださいって」


「ありがとう」


 お好きな席にという話のはずだが、俺が適当に座るとなぜか速攻で汨羅と鈴芽が隣に座り、向かいに燕が座った。 

 ……なんか、妙な圧を感じる気がするがきっと気のせいだろう


「チュンチュン(どうぞ召し上がれ)!」


 雀女将がメニューを説明しつつ、夕食が始まった。

 以下、鈴芽の翻訳付きでお送りする。


「チュンチュン(小鉢はかぼちゃのそぼろあんかけです)」


「いきなりおいし〜」

「かぼちゃのやさしい甘み」 


「チュンチュン(焼き魚は銀鮭ときのこのバター醤油焼き)」


「おいしい!」

「秋の味がする!」


「チュンチュン(エンドアバイソンの石焼きステーキです)」


「焼き加減が絶妙! おいしい!」


「チュンチュン(食事は鮭ときのこの炊き込みご飯イクラのせ)」

「文句無くおいし〜」


 すずめのお宿の料理はすべて俺達がハロウィン村で手に入れた食料を使っている。食料保管庫という場所があり、そこに一度食材を入れてしまえばアイテムボックスよろしく半永久的に保存して雀女将が料理してくれるのだ。

 ちなみに宿の風呂や雀女将などはすべて鈴芽のマナで作られている。

 いずれは宿自体で料理を作れるようになるらしいが、今はまだ進化の途中ということだった。

 いまでさえとてもおいしいのに、これ以上進化するなんて……。

 どこまですごいんだ、《すずめのお宿》。


 雀女将のおいしい料理に舌鼓を打つ俺達。

 ……約一名以外は。


「うまい! 女将ビールお代わり」

「チュンチュン」


 だめな大学生の見本みたいな人がいた。喜桐だ。 ある意味宴会場にもっとも合っているとは言える。


 民宿形態のすずめのお宿には売店はないものの自動販売機が有り、そこで日本のジュースや酒類も買えるようになっている。普通のアルミ缶に入って出てくるんだが、宿の外には持ち出せない。ただ未成年の俺達は買えないし飲めない。日本の法律を魔法の力で守らせてくる。


 ちなみにこの自販機、あらゆる物がタダなすずめのお宿の中にありながらしっかりお金がかかるらしい。

 喜桐はビール片手の浴衣姿という昼間のキリッとした姿とはうって変わった乱れた格好で飲んでいた。


「かーーっ! まさか異世界でもう一度ビールが飲めるとは!」


「だいぶダメな大学生っぽい」


「なにを、普通の大学生だよ。君たちももう3年したらこうなるはずだったんだ」


「なりたくねー」


 もう大学にはまず行けない俺達だが、仮に日本に戻れてもこんな大学生にはならないと誓う。


「ってわーーっ! 浴衣が着崩れているぞ! ちゃんと着ろよ」


「お、少年、僕にも興味あるのかい」


「そういうからかい方はやめてくれ!」


「いいよ〜、天道少年には仲間に誘ってもらった恩があるからな。少しくらいなら……」


「だからやめてくれって!」


 その時後ろから伸びてきた腕にがしいっと喜桐がつかまれた。

 見れば、汨羅がものすごい雰囲気のある笑顔で喜桐を捕まえている。


「有都、ちょっと、向こうで、話しましょうか」


「あ、お嬢様、ごめんなさ……ああああーーーっ!」


 汨羅に引きずられていった喜桐は無事ボッシュートとあいなった。

 南無。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る