第44話 ハイエルフの森再生
ご飯を食べてお腹いっぱいになったら仕事の続きだ。
まず役割分担をした。汨羅との戦いは終わったので、タイガとミラさんにはひとまずハロウィン村に帰って状況報告をしてもらう。お土産にたっぷりオアシス産の果物を持ってもらった。これがあれば汨羅と和解したことがすぐに伝わるだろう。
残りのハロウィンパーティーメンバーは、ハイエルフの森の再生だ。
「といっても、このゴミの山をどうしたもんかな……」
見渡す限りゴミだらけで途方に暮れる。日本のニュースで見た貧しい国の特集にゴミ山があったけど、そんな感じだ。
俺は汨羅に訊ねた。
「ファイアボールの何乗とかで一気に燃やすことはできないのか?」
「できるけど、それをやると汚染物質が灰になって周囲に広がってしまうのよ。今は定期的に土壁魔法で周りを囲って汚染が広がらないよう抑えているわ。それもそろそろ土地の広さ的に限界」
「なるほどな。うーん……アヌビス、どうしたらいいと思う?」
今度はアヌビス神に訊ねてみるが、彼も首を横に振った。
「私の力でもどうしようもできませぬ。マスターと再び神霊憑依して「
「そうか、うーん……」
悩んでいたら、汨羅がなにか伺うように訊いてきた。
「その、ずいぶん親しげに話しているけどそれって神様なのよね? いったいどうしてそんな仲が良いの」
「アヌビスだ。ジャッカルと関連があって俺のスキル《ここほれワンワン》で使い魔になってくれたんだ」
「アヌビスです。よろしくお願いします」
「ええ……?」
俺の説明に汨羅がドン引きする。
「神様も使い魔にできるの? あなたのスキルってだいぶとんでもない性能よね……知ってるわよそれ、未来の日本でちーとって言うんでしょ」
「汨羅のスキルも大概だけどな。なんだよ2の冪数で増やすって」
といっても今回は花咲かじいさんでもどうにもならないかもしれない……と思っていると、頭の中でいつもの音声ガイドの声がした。
[ゴミや汚染物がある時、《枯れ木に花を咲かせましょう》の灰を撒いてから燃やすと浄化され土地も蘇ります]
「出たな! 肝心な時しか役に立たない音声ガイド!」
「なになに? どうしたの?」
「いやこっちの話だ。ところで、俺の灰をゴミに撒いてから燃やすと、いい感じに浄化されるらしい」
「本当?」
さっそくやってみた。
ゴミの一部に灰を撒いて汨羅のファイアボールで燃やしてみたのだが、ガイドのとおりにきれいな灰だけが残り、下の砂と混ぜるとハロウィン村のようなふかふかの黒土に変わった。
「すごい!」
「よーし、さっそくゴミ全部燃やそう!」
マナで出せるだけ灰を出して、ゴミ山全体にかかるよう手分けして撒いていく。空を飛べるジャックやアヌビスにも協力してもらってまんべんなく撒いていった。
だいたい撒き終わったら、汨羅が魔法で火をつける。
「ファイアボールの、
無数の火球がゴミ山に次々と着弾し燃え広がっていく。改めて思うが弾幕ゲーみたいな光景だ。
「俺この魔法を食らっていたんだよな。よく生きてたな……」
「それは本当にごめんなさい」
あっさりとゴミ山は燃やし尽くされ、あとには灰で真っ白になった土地が残る。みんなで一部を耕すとすぐに黒土に変わった。
その光景にみんなで喜びあう。
「よっっし! 土地が復活した」
「ばんざーーい! うまくいってよかったね!」
「あとは全体を耕すだけね。ハロウィン村の人たちも呼んでやればすぐに終わるかしら」
「ここが森になるんだよね? すごい豊かになりそう」
俺と鈴芽、燕、ウサがハイタッチする。ジャックとアヌビスも浮いたまま嬉しそうにしていた。
と、汨羅が急に抱きついてきた。
「ありがとう……天道本当ありがとう……!」
「ちょ、まだゴミを燃やしただけだって」
「ありがとう〜〜! 私の、私の70年がようやく報われ……ありがとう天道!」
「いやわかった! もうわかったから!」
お前パーティーメンバーで一番スタイルいいんだからちょっとは加減しろ!
いろんな部分があたってるって!
◆◆◆◆
汨羅の抱きつきから解放された俺は、改めて訊ねる。
「森を再生するって話だったけど、どんな木を植えるかは決まっているのか?」
「ええ、これを植えようと思うの」
汨羅が懐から小さな布袋を取り出す。そこにはくるみ大の種がいくつも入っていた。
「それは?」
「ユグの実。ユグっていう特別な木があってね。何千年も生きて、成長すると天にも届くくらいの大樹になる。『魔物を遠ざけ、その森に住む動植物に守りを与え、豊かなマナを産出する』――と言われるハイエルフの特別な木」
「へえ、すごい木だな」
エンドア砂漠は魔物だらけで弱い人たちほど困っている。魔物を遠ざける森ができたら、きっと住みやすくなるに違いない。
「それじゃあさっそく植えてみるか」
「ええ」
出来たばかりの黒土へ、汨羅が大切そうにユグの実を植えていった。
一粒一粒やさしく、丁寧に。彼女がどれだけハイエルフの森を思っていたのかわかる。
その後は見慣れた現象がおきた。土からすぐに芽が出て、それはどんどんと成長していきすぐに若木になる。
「おおー、成功だな。これなら一晩経てば立派な木になるんじゃないか」
「初めて見たけど、天道のスキルって本当にすごいわね」
ニョキニョキ伸びていくユグの木を前にして、唖然とした様子で汨羅が言う。
「ユグの実はそれだけなのか」
「ええ、私が持っているのはね。でもハイエルフの隠れ里に行けば村長がたくさん持っているはずよ。これを植え終えたら、事情を話しに行って譲ってもらう。話し次第ではそのままハイエルフたちがここに戻ってくるかも」
「そうか。じゃあハイエルフの森が復活するのもすぐかもな」
「全部あなたのおかげよ。ありがとう天道」
「な〜に、花を咲かすのが得意ってだけさ」
気にするな、と軽く笑う。汨羅が優しく目を細めた。
汨羅は持っていた20個ほどのユグの実をすべて植え、翌朝無事に育つか一応確認すると言った。うまく行けば明日すぐハイエルフたちに話しに行くのだという。
俺達は一度帰ってもいいんだが、せっかくだし森が再生するまで見守りたい。ハロウィン村への連絡は済ませているので、俺達もここで一晩泊まることになった。
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