知ったこっちゃねぇよバァカ!!

「な、な、な、なぁ…………!?」


 装着を完了した瞬間、溢れる魔力が霧となって周囲に噴霧される。

 これは別に狙った訳ではないがメカメカしい雰囲気が出ていて素晴らしい演出に仕上がっていると思っている。


「っしゃあッ!! 見たかこれが『ゴースター』だ!」


 だがそれよりもまず、この興奮!

 俺が成し遂げたのはただ魔道具を起動しただけではない。全身にスーツを纏い変身したのだ。

 これに興奮しない男など存在するだろうか。

 いや、居ない!


 現にほら見ろ! どいつもこいつも俺を見て目を光らせているじゃないか!


「が、骸骨……?」


 誰かがぼそりと呟いたそれを、俺は聞き逃さなかった。


「そう、そうだよその通り! このスーツには竜種の鱗を粉末にしたのが混ぜ込んであってな! そいつのイメージを借りた姿にそしたのさ。召霊術師としてのイメージにもピッタリだろ? 因みにスーツの原材料は金属の性質を持つスライムを採用した。その精度の程、今見せてやる」《BASTARD・BLADE》


 銃の取手を引いてズラすと刃の無い剣の形に変え、残りのスライムで刃を形成する。

 サモンツブッシャーは大剣の形にもなれる。これで召霊術師や召喚術師の弱点となる近距離戦にも対応できるようになった。


「お前等下がってろ、……んじゃ、行くぜェ!」


 俺は走り出す。

 それだけでニヤケが止まらない。

 スーツは俺の動きを邪魔しないだけでなく、魔力の通りを常に最上に保ってくれる。スライムを使用して正解だった。これなら武器に過剰な負担をかけることなく十分な戦闘が可能となる。


「ふっ、《その黄土の輝きは槍となり、敵を貫く》『琥珀の宝石』!」


「おっと鋭利な岩が大量大量!」


 宙に形成された多数の岩石が詠唱通りに俺を貫こうと襲い来る。

 それらに対し足を止め、敢えて受ける。


「ふっ、ハハハハ! どうだ、僕の宝石魔法の輝きは!」


「そうだなぁ――――」


「へ?」


 吉良が間抜けな顔を更に崩す。

 確かにコイツの優秀なんだろう。少なくとも同年代が相手なら負ける可能性は低い。

 

「――――マッサージには丁度良いかもな?」


 だが所詮はモブ。

 それもマノの後ろに隠れて威張るしか能がないときた。


 そんな奴がこの俺に、主人公すら食らいつくす悪役に、勝てる訳ねぇだろうが。


「ば、馬鹿な! 確かに直撃したはずだ!」


「ハッ! 気になるか? 良いぜ教えてやる。このスーツには竜種の鱗が混ぜてあるって言ったな?」


「そ、それが何だ!?」


「竜種ってのはどの個体もクソ硬いだろ? その原因になるのが鱗な訳だが、実際は常時あの硬さって訳じゃない。奴等の鱗はな、内部外部問わずに一定以上魔力を流すとその強度が著しく増すんだ。だから上級魔法とかも全然通じなくて出現した時に苦労する訳だな」


 この辺の知識はその分野の専門に行かないと得られない知識だ。

 吉良が知らないのも無理はない。

 俺だって、使えそうな素材をひたすら探して本を読み漁った結果得た知識だから完全なものって訳じゃないしな。


「いやぁ苦労したんだぜ? 最初は竜の鱗で鎧を作ろうと思って…………」


「ええいうるさい! 君の自分語りにはもううんざりだ! 僕の最強の魔法で終わりにしてやる!」


「え、いやまだこのスーツの格闘性能とバスタードモードの攻撃性能が……あとサラマンダイルの攻撃も見せて……!」


「知ったことか! これは決闘だぞ、作品発表じゃないんだ付き合ってられるか!」


「んだよ、開発者直々のありがたいお話だろーが!」


「黙っていろ! あの程度で僕の攻撃が終わったと思うな! 《この最上の輝きは地上を震わし、全ての敵を殲滅する》『雷神の瞳』!」


「そいつは、雷鳴を秘めた宝石フルグライトか!?」


 こいつめっちゃ希少なの持ってんじゃん!

 そういえば魔宝石商の跡取りとか言ってたっけ?

 こういうのポンと貰える辺り、相当の大手みたいだな。


 降り注ぐのはまるで雨のような雷。そのどれもが高威力であり、並大抵の相手なら間違いなく沈められること間違いなしの大技だ。


「フハハハ! これこそがマノ様に認められた上級魔法! 君の様な愚者を灰塵に帰す浄化の輝きだぁ!」


「ああ最高だ。漸く潰し甲斐を見せたなぁ!」


 流石はエリート、この魔法を見れば積んできた研鑽の長さがわかる。

 だがその長さなら俺だって負けていない。

 構想四年、製作期間五年! ウィズに弟子入りしてからというずっと温めてきたこの魔道具でお前の最上級を打ち破る。


「さあここからが臨界点……。必殺技を見せてやる!」


 剣の持ち手のトリガーを引き続ける。

 銃身に魔力が貯められていき、それにつれて光が増していく。


 刃が輝く。そこに纏わりついているのは多数の鬼火ウィルオウィスプ達。

 それらはスライムと共に混ざり合い、刃を徐々に肥大化させていく。

 さあ行くぞ、刃ごと叩きつける爆熱の剣!


「ウラアアアアアアア!!!」《FINAL CURTAIN》


 俺は大剣を全霊の力で横薙ぎに振るう。

 大量の鬼火ウィルオウィスプ達とスライムが形を変え、まるで鞭のようにしなりながら雷鳴の嵐と衝突した。


「無駄だ、君如きにこの魔法は……」


「スライムがどうして厄介や魔獣とされてるか知ってるか?」


「ふ?」


「それはな、魔法を吸収して自身に取り込んじまうからだ。スライムの身体はとんでもなく吸収効率が良いのさ」


 ここまで言った時、吉良の顔が青くなるのがわかった。

 何だ、ちゃんと学習してるじゃないか。


「仮にスライムを弾いたとしても威力は減衰必死。けど俺にはまだ大量の爆弾が残ってる」


 吉良の頭上で爆発が起こる。

 そこにはもう、雷は無い。


 そして彼の身に迫るのはスライムと混ざっていたはずの鬼火ウィルオウィスプ達。

 それらは吉良を狙い、絨毯爆撃として降り注いだ。


「ぶへえええええええ!!!」


 悲鳴があがる。

 煙が晴れるとそこには全身を黒焦げにして倒れている馬鹿の姿があった。

 だが意識は失っていないらしく、力の無い表情で俺を睨んでいる。


 意識があっただけでも凄いが。

 完全にノリノリで手加減が余りできなかった。それをあそこまでに抑えたのだからやはりコイツはそれなりにやれる生徒と言える。


「そこまで! 吉良エリトのこれ以上の戦闘続行は不可能と判断させて貰う! よって勝者、産神アサヒ!」


 教員が大声で結果を告げる。

 俺はスーツを元の場所に戻し、霊獣達も向こうの世界へ返す。

 結局サラマンダイルはただ呼んだだけになっちまったな。

 

 まあ良いか。勝ちは勝ちだ。

 周囲の奴等は完全に圧倒されているのか呆然と立ち尽くしている。

 誰一人歓声をあげることはない。この俺が圧勝したんだからもう少し盛り上がっても良い気はするが、まあ黙っておこう。

 ここでグチグチ言うのはダサいしな。

 

「ふざけるな……、こんな勝負は無効だ!」


 こんな感じでな。


「は? 何でだよ」


「ふっ、決まっている。魔導士の勝負は詠唱による攻防こそが華! 古き時代よりずっとそうやって続いてきたんだ! 君はその伝統を土足で踏み荒らし唾を吐きかけた! それに対する申し開きはあるか!」


「ねぇよそんなもん、俺なんも悪いことしてないし」

 

「ふっ、何を言う!? 神聖な決闘に恥ずかし気もなくふざけた魔道具を持ち込み、あまつさえ霊獣の力だけで勝利だと!? 君はこの学園の生徒として恥ずかしくないのか!?」


「つまりお前は俺を卑怯者だって言いてぇのか?」


「ふっ、ああそうだ! 君のその力はまやかしだ! 道具の力で無能をひた隠しにする魔導士の風上にも置けない最低の男だ! 大体君は魔導製作科だろう!? だったら大人しく僕らの支援に徹したらどうだ!」


「知ったこっちゃねぇよバァカがよおおおおおおお!!」


「ブヒュウ!?」


「産神よせ!」


 みっともなくグチャグチャと捲し立てる吉良に対し、俺はドロップキックをかます。

 決闘後の暴力に訴えるつもりはなかったがつい反射的に足が出てしまった。


「テメェらの、この学園が掲げるカスみたいな王道なんざどうでも良いんだこちとらよぉ!」


「か、カス!?」


「そう! カス! ゴミ! クソだ! くっだらねぇ理由で人に人生潰そうとしやがって!」


 思い返すのは過去の記憶。

 ウィズにも会えたし、家族も理解を示してくれたし、転生していることに気がついてからも別に悪いことだらけだった訳じゃない。


 ただやっぱり鬱陶しいと思うことはあった。

 実家が太かったからまだマシな方だったろうが、それでも邪魔をしてくる奴は大勢いた。

 似たような地位持ってる奴は特に。


 自分の気にいらない人間が足掻いているのが気に食わなかったのか知らないが、あの手この手でひたすらに邪魔をしようとする奴の多いこと多いこと。特に大人。前世が存在しているとはいえ、こっちはまだ子供だってのに。

 俺の人生どんな時でも邪魔が多い。原作でああなるのも無理はない。


 最初は主人公とヒロイン憎しで始めた研鑽も、いつしかああいう奴等全員を潰してやろうという意識のもと行うようになっていた。


「俺がこの学園にいるのはな、俺の道が正しいと証明するためだ。お前みたいなくだらねぇプライド引っ提げてる奴等全員を潰して、この邪道みちこそが王道だと証明することだ」


 当然、その中には主人公やヒロイン達も含まれている。

 原作には魔道具をメインに戦う人間は居なかった。だからきっと、奴等も同じことを思っているに違いない。


「お前のボスにもよろしく言っとけ。お山のガキ大将の首じゃあ不足かもしんねぇけどな」


 吉良の襟を掴み、そして投げ棄てようとして止める。

 言いたいことは言った。けど最後に言い残したことが一つある。


「大体よぉ……」


 それは吉良に初めて会った時からずっと思っていたことだ。

 

「お前の一々『ふっ』から会話し始める癖がぁ……」


 エリートらしいと言えば確かにそうかもしれないが、それでも言いたい。

 

「死ぬほどムカつくんだよおおおおおおおおお!!!!」


「ぶふぅううううううううううう!?」


 叫びと共に吉良を蹴り飛ばし、沈黙が場を支配する。

 誰もが信じられないものを見たような目で見ている。


 思わず俺は手で口を覆った。


(すげぇ、やべぇ……。これが、これが勝利!!)


 再び視線を吉良に向ける。

 肩で息をしているあいつは頬を抑えながら、ただ俺を見ていた。


 途端、途方もない快感が俺の中を駆け巡る。

 脳が麻痺し、身体全体が熱くなり、魂が震える感覚。

 世の中の勝者は常にこの快感を味わっているのか。


 そりゃもう最っ高の気分だろうなぁ。


「フフフ、クククククク……。ハハハハハハ!!!」

 

 知ってしまったらやめられない快楽。

 どうしてこの世界から闘争が無くならないのか、理解できたような気がする。

 

 この感覚を再び味わうためだったら、俺はどんな責め苦にだって耐えられる。

 その確信に酔いながら、俺はただ進み続ける。

 この足が止まることはきっと無い。

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