一日一編集『十二月に優しさはないが布団にはある』

朶骸なくす

かえるのうたが

 手は昔から皺くちゃだった。

 おばあちゃんほどではないが、線が入り皮がよれて好きではない。

 友達の骨張った手が羨ましかった。

 

 恋人繋ぎのとき、どうも指が太いのか、繋ぎにくかった。

 それからは手を握るだけにした。


 どうも、指には「むくみ」というものがあると知った。


 それを彼女に言ったら「へえ」と返されたけれど。


 少し経って。

 結婚することになった。


 私は「むくみ」の話を持ち出すと、店員も「そうだ」と頷いて、

「夜になれば、少し「きつい」と思うぐらいがいいですよ」と

 図りのリングを指にはめながら感触を探る。

 13号でいいみたいだ。彼女も13号でいいらしい。

 指輪の装飾も内側の彫りも決まって、約一週間のできあがり。


 同性ということではないが、お互いに思うところがあって結婚式はしなかった。

 周りからの「おめでとう」のLINEぐらいは受け取っておく。

 中にはハムセットを送ってきた奴もいたけど。


 落ち着いた頃に、やっと指輪をしている結婚していると自覚し始めて恥ずかしくなる。

 それを正直に言ったら、鼻で笑われ「なんでよ」と返された。

 この皺くちゃの手に指輪があることが信じられない。

 おばあちゃんみたいな手なのに指輪しているの。

「指が皺くちゃで嫌だって話、何回もしているけどさ」

 左手をとられてリングを擦る。

「これは大切なもので、この手はもっと大切なものだ。好きなんだよ、全部」

 言葉に詰まり、私は左薬指のリングを見た。

 皺くちゃな指に、すっぽりとはまっている。

「まあ、何回でも言うから何回でも悩んでれば」

 パッと手を離されて彼女は笑った。

「何度でも欲しい答えを言ってやるからさ」

 そう言い立ち上がると「今日は麻婆豆腐~」と言いながら言ってしまった。

「……今日、麻婆豆腐だったっけ」

 言葉の繰り返しが止まって、時計が正常に動き始まる。

 何度でも繰り返してしまうだろう。私の手よ。

 それを許してくれる人がいることを忘れないで欲しい。

 この話を別の何かに、かえることはないだろうから。

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