第3話:紅子ちゃんのちょっとした生い立ち。

な訳で、大翔は駅のトイレで、自分の着替えを紅子さんに着せた。

トレーナーにジーンズだったが、お団子頭と相まって、紅子ちゃんは

ちょっとしたギャルになった。


「あのさ、この後、俺駅弁買うから・・・ああ君も・・・いるよね駅弁」


紅子ちゃんは嬉しそうにうなずいた。

で、自販機の駅弁ふたりぶん買って、ホームで電車が来るのを待った。


(連れて帰るのか?・・・河童様を・・・)

(もう知らねえ・・・)


その時の大翔の気持ちは半々だった。

こんな可愛い子が彼女っていいなって気持ちと河童なんてダメだろうって気持ち。


(河童なんて思わなかったら俺の横に顔色の悪いギャルがいるだけなん

だけどな)


で、ふたりは電車に乗った・・・もう後戻りはできない。


(まあそんな大げさなことでもないけど・・・俺のことが嫌になったら、

紅子さんは、すぐに遠野に帰るだろ・・・女は気まぐれって言うし・・・

特に神様なんてわがままなんじゃないか?)


・・・なんて大翔は思ってた。


でも、それはとっても甘い考えだったわけで・・・。


「さっきから黙って何考えてるの?ヒロト君」


「あ・・・いや・・・なんでも」

「あ、そうだよく考えたら俺のことなにも教えてなかったよね」

「俺の職業、ルポライター、各地の伝承を取材して回ってるんだ」


「知ってる・・・旅館の宿泊名簿見たから・・・」


「え?、そうなんだ・・・いつの間に・・・」


「ヒロト君って呼んでいい?」


「つうか、会った時からずっとそう呼んでるじゃん」


「ヒロト君、私のこと伝説になんかなってるような面倒くさい女だと思って

るでしょ?」


「思ってないよ・・・」


「私ね、実は天草の島原から遠野に引っ越してきたの」

「島原の乱に巻き込まれてね、命からがら逃げて来たんだよ」

「そんなだから私は遠野の河童さんとは少し違うでしょ?」


「顔の色だって遠野の河童さんみたいに赤くないし・・」


「ああ、そうなんだ、やっぱり」


「それでね、私のご先祖様はもともと中国出身で河伯かはくって言って

黄河の神様がルーツなんだって」

「普段は人の姿をしてて河にいる時は白い亀さんとか白い竜さんの姿だった

んだって・・・」

「で、大昔に海を渡って日本にやって来て河童になったんだそうよ」

「嘘か本当か知らないけど・・・」


「たしかに長い歴史の中じゃ紆余曲折あったけど、だからって私のこと

妖怪とかって毛嫌いしないでね」

「ヒロト君、私を捨てたら、呪い殺すよ・・・」


「ええっ?・・・」


「藁人形作ってヒロト君って名前書いて木にブラ下げて五寸釘打って呪い殺

すからね」


「まじで?・・・そんなことできるの?」


「できない・・・けど、私そのくらいの気持ちだからねって言いたかったの」

「私ができるのはお薬の調合に、傷を治してあげること、それに・・・あとは

ひ〜・み〜・つ〜」


「秘密って・・・出し惜しみする訳?」

「っていうかなんでそんな呪い殺すなんて人を脅すようなバカなウソつくんだよ」


「想い余って憎さ百倍って言うでしょ・・・」


「そんなに俺のことが好きなの?」


「うん、死ぬほど・・・」


「そんなに?」

「会ってまだ何時間も経ってないのに、そこまで人を好きになれるもん?」

「あのさ、これまでカッパ淵にたくさん人が来たでしょ・・・」

「その中に、この人はって思う人ひとりもいなかったの?」


「あのね、人って言うけど、だいたいは家族ずれかカップルでしょ」

「独身の男性がひとりであんな、ど田舎の河淵や旅館に来るなんてあまり

ないよ」

「来たとしても、私が気に入らなかったら意味ないでしょ」


「あ〜なるほどね」


「じゃ〜俺は飛んで火に入る夏の虫だったってわけか・・・」

「で、河童様にパクって食べられちゃったってことなんだ・・・」


「人を※うわばみみたいに言わない」

「だからね・・・嫌いにならないでね・・・おとなしくしてるから」

「なんでも言うこと聞くし、わがままも言わないしウザくもしないから」

「言ってくれたらエッチだってさせてあげるからね・・・」


「また、言ってる」


(これが伝説の河童様か・・・まるっきりそこらの女子高生と変わんないじゃん)


「分かったよ・・・今更だもんな」

「しかたない、いがみ合ってたっていいことないしさ・・・」

「俺のマンションに紅子ちゃんを連れて帰る・・・それでいいだろ?」


彼女は両手を頭の上にあげて丸を作った。


つづく。


※うわばみとは大きなヘビのこと。

伝説上の大蛇(おろちを指すこともあります。


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